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旅の始まり
サリは扉を大きく開けた。
その向こうにはリザウェラとスエイドがいて、サリに笑顔を向けてくる。
辺りはすでに明るく、鳥の声や木々のざわめきがあるなか、心地よい風が吹き抜けた。
サリはにっこり笑って朝の挨拶をする。
スエイドが荷物を尋ね、玄関脇に置いてあるそれらを手にした。
3人は軽くお喋りしながら短い階段を下り、馬車に向かう。
スエイドが荷物を馬車に積む間に、サリとリザウェラは客車に乗り、すぐにスエイドも乗り込んでくる。
リザウェラが客車内の組紐を引くと、馭者台で乗降鈴が鳴り、出発の準備ができたことを知らせる。
馭者が手綱を軽く振って掛け声をあげ、馬車がゆっくりと、徐々に速さを増して動き出す。
サリは窓に嵌め込まれた透明の硝子板から車外を眺め、やがて、生まれ育った邸の正面を見て胸に収める。
カリやイズラ、両親の顔が思い出された。
旅から戻ったら、カリとイズラの嬉しい式が待っていることだろう。
今回の旅は、けして楽なものではないし、危険が付きまとう。
だが、めでたい式の前に、サリや旅の一行に何かあっては、その喜びに深い傷を入れてしまう。
サリは、自分はもちろん、旅の一行に何事も起こらないよう、自分も力を尽くして務めねばと、強く心に刻むのだった。
やがて邸の塀が過ぎると、背の高い黄色く美しい並木道が続く。
見慣れたその景色を眺めながら、サリはカィンのことを思う。
瞼を閉じて、胸に手をあて、彼からもらった言葉や気持ちを思い出す。
それは温かく、サリに力を与えてくれる、大きく心を占める思い。
サリはゆっくり瞼を開けて、今ここにある現実を受け止める。
揺れる客車に車輪の音。
流れる景色に馭者の掛け声。
そして同乗する大切な旅の仲間たち。
これは大事な役目の。
旅の始まり。
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