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彼は申し訳なさそうな顔でミナを見た。
きっと、ミナたちが何事もなく王都を通過できるように、尽力してくれたのだろう。
ミナとデュッカは王の前に進み出て、男が王の名を言い、2人の名と身分を王に伝えるのを見ていた。
王の名はセムネスティ・パラムという。
セムネスティは、ひいきめに見ても、太っていた。
ミナはテオとどちらが太いだろうかと考えてみた。
そんなこととは知らず、セムネスティは言った。
「そなたらの働き、聞いておるぞ。我が国を火山の脅威より救ったこと、大儀であったな、礼を申す」
セムネスティの近くにいる男が、なにごとかを囁いた。
セムネスティは言った。
「ところで、彩石判定師とやら、瞳が珍しい色合いをしておるとか。近くに寄って見せよ」
デュッカの気配がぴりりと尖った。
ミナは歩きざまにそっと彼の手に触れ、気持ちを伝えた。
…大丈夫、不安はない。
ミナはそのままセムネスティの前に進み、両膝を屈めた。
「ほう、確かに不思議な色合いだ。もっとよく見せよ」
セムネスティの太った指がミナの顎を捉えた。
その瞬間、セムネスティは、ぱちぱちと瞬きし、吸い込まれるようにミナを見つめた。
それは長い時間だった。
やがてミナが言った。
「セムネスティさま。ほんの少し風を通してよいでしょうか?」
セムネスティは指を離しながら答えた。
「好きにせよ」
ミナは頭を下げた。
「ありがとうございます」
そうして急ぎ足でデュッカのもとに戻り、その両手をとって持ち上げた。
「デュッカ、風を通して、気持ちを伝えてください」
デュッカは眉根を寄せたが、言われた通り、その力の及ぶ範囲に風を届けた。
ミナは、その風に自分の思いを乗せた。
セムネスティを思う心。
国民を思いやる心。
ダヌカノイの配慮に感謝する気持ち。
それらに心を砕きたいと思う気持ち。
そうして、デュッカの真っ直ぐさを拾い上げ、それを愛しく好ましく思う気持ち。
やがて風が止むと、人々は目を瞬かせた。
気持ちのよい風が吹いた。
それは憎み、妬み、傲り、蔑み、怠り、怒り、欲張り、虐げる気持ちを払う風。
ミナはセムネスティに向き直った。
「それでは急ぎますのでこれで失礼します。どうぞお健やかに」
「ああ…旅の無事を願う」
「ありがとうございます」
そうしてミナは入ってきた扉に向かい、歩き始めた。
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