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扉が開かれ、ミナが出て、デュッカが続く。
部屋を出て、扉が閉まると、ミナは立ち止まってデュッカの腕を掴んだ。
「すみません。あの…」
運んでください、と言おうとして言葉を選んだ。
…運んでくださいでいいんだっけ?腕を引いてもらえれば、歩けそうな気がする…
そこでミナの意識は途絶えた。
次に意識が戻ったとき、ミナはデュッカの両腕に運ばれていて、デュッカの顔は少し怒っているように見えた。
「すみません…」
呟くとちらりとミナを見て、言った。
「二度とやるな」
ミナは、しゅんとなった。
拒絶、された…。
「ごめんなさい…」
デュッカはミナを見なかった。
ミナは後悔した。
正しいことをしたと思う。
でもそれは他人の気持ちを踏みにじっていい理由にはならない。
ミナは取り戻せないことをしたと思った。
やがて馬車が見え、騎士たちが緊張するのがわかった。
けれど何も言えない。
「ミナ」
イルマが声をかけたが、やはり何も言えなかった。
気持ちを伝えたくて腕をあげた。
「近寄るな」
デュッカがイルマに鋭い視線を浴びせた。
イルマが息をのみ、パリスとセラムが近付いてくるのが見えた。
サリが客車扉を開け、デュッカはミナを傷付けないよう、慎重に中に入れ、座席に横たわらせると頭に綿袋を敷いた。
「動くな」
そう言って一旦外に出て、指示を出した。
速やかにティターヌを離れ、ヴェヅネッカに向かうように。
しばらくミナには近付かないように、触れてはならない、触れられてもいけない。
「どういうことです」
パリスの鋭い声に、デュッカは答えた。
「あれは気持ちを触れることで伝えている。その度に力を使っているんだ。今は風の力を底まで使い切った状態だ。これ以上は命に関わる」
外の者たちが息を呑むのがわかった。
心配させてしまう…。
だがミナにはどうすることも出来なかった。
「なぜそんなことに」
パリスの声が聞こえる。
「俺のせいだ」
デュッカがそう言うのが聞こえて、ミナは体を起こそうとした。
体が重い。
ミナはわずかに身動きできただけだった。
「デュッカ…」
呼び掛けた。
後悔が滲む。
自分のせいなのに。
「…とにかく急げ。早く休ませたい」
デュッカに言われて、パリスたちは馬に戻ったらしかった。
すぐにサリが入って奥に座り、イルマが入り、デュッカがその隣に座る。
ミナはデュッカを見て言った。
「デュッカ…あなたのせいじゃない」
窓の外を見ていたデュッカは、ちらりとミナを見ると、また窓の外を眺めた。
眉間に、きつく皺を刻んでいて、何かを堪えているようだった。
ミナはデュッカの膝に触れた。
「気に病まないで」
ミナの意識はそこまでだった。
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