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「お姉さまとお兄さまにフィノとファノを用意したいのですわ。フィノはこれと思うものがあったのですけれど、ファノを今、探し中ですの」
ミナは頷いた。
「どんなフィノ?」
「これですわ」
それは繊細な木彫りに、貝殻の輝く螺鈿をあしらった美しい髪留めだった。
「それなら木の素材が同じものがいいと思う。一対って感じに見えるから」
そう言うと、サリは顔を輝かせて言った。
「そうですわね!」
それからサリは困ったような顔をした。
「あら、これ、なんの素材ですかしら?」
「店員さんが判ると思うよ」
「まあ、そうですわ!早速聞いてきます」
店内を急ぎ足で移動するサリを見つめて、ミナは微笑む。
それから、自分の悩みに立ち戻った。
あまり見映えはしないが、男性陣の土産を木製墨筆(すみふで)にしたいのだ。
木の温もりがあってやさしく、使いやすい気がするのだ。
「パリス、セラム、ちょっとこの墨筆握ってみて」
「どれ?」
ミナは木製墨筆を指差した。
「炭筆ともちょっと違う感じがいいかなって思ったんだけど、どうかなぁ」
炭筆は木製だが、一般的に細く、この木製墨筆は太い。
そして試し書き用の墨筆は、どれも書き味がよいのだ。
「うん、どれも滑らかでやわらかいね。俺も買おうかな」
セラムは本気らしく墨筆を次々試す。
「えっ、本当に?じゃあ大丈夫かなあ…」
「誰に贈るんだ?」
パリスに聞かれて、男性陣に、と答える。
「ユラ-カグナとか、テオとか彩石騎士のみんなとか。この丸み、加工の仕方はレア・シャスティマらしいと思うの」
「いいんじゃないか?でも値が張るな…大丈夫か?」
「うん。充分お給料もらってるから」
ミナは人数を確認して、買うことにした。
代金を払って品物をパリスに持ってもらうと、サリを探す。
サリは2ヵ所を行ったり来たりして、首を捻っている。
「どうしたの?」
「あっ、こちらとこちらで迷っているんですわ。お姉さまには螺鈿入りを選んだのですけれど、男性にはちょっと…、でも、螺鈿がないと一対に見えないでしょうか…」
ミナは悩んでいる品物を見比べた。
「私は螺鈿が入ってない方がいいと思う。さっきのフィノ見せて…うん、この辺りに流れる線の感じが同じで、それでいて男性に合うと思う。イズラに合うと思うよ」
サリは、ぱあっと笑顔を開いて、そうですよね!と言った。
「わたくし、これとこれにしますわ!」
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