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喉が渇く‥
再び目覚めると、時計の針は午後3時を回っていた‥‥。
睡眠のキレが悪いと矢鱈惰眠を貪るものだ。
水を求めフラフラと部屋を出ていく…。
‥と…耳に届いたのはバスルームから漏れ聞こえる水を弾く音。
(そうだ‥施術のアフターケアはひとりでは無理だ…)
浴室の扉の前で彼が出てくるのを待った。
が、シャワーの音はとっくに止んでいるというのになかなか出てくる気配がない。
心なしか不安になり脱衣場のドアを開けた。
「…入るぞ‥」
シエルは鏡に向かって必死に自分の背中と格闘していた。
「ばか‥呼べばいいのに。貸してごらん」
ワセリンの瓶を受け取り彼の背を撫で付けると、先ほどのむしゃくしゃが不思議なくらい晴れる気がした。
シエルは消え入る声で呟いた。
「よく寝てたから‥‥‥‥ありがと…」
やはり…改めて目にすると思わず見入ってしまう見事な彫りである。
しかしながら、未だ生々しい施術痕は、紅く痛々しく腫れ上がり、定着までの大事を要求していた。
初めて触れる彼の肌の質感と温度の相まった
えも言えぬ高揚感‥‥だが私は、この背中を愛でる権利を私に与えられていないことを知っている。
「‥傷の手当てならいつでも呼びなさい…」
「ごめんなさい‥ぁ‥と‥昼食は…」
「けっこうだ…」
「昨日からほとんど何も食べ…」
「いらないっ!
‥‥‥‥‥‥‥作業に入る‥‥」
語気が険しくなった気まずさから、私は逃げるようにシエルから離れた。
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