その7

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「六道君に世話になってる佐々木出海です、はじめまして…今回は神聖な現場にお邪魔…」 「カタっ苦しい挨拶なんて無しナシ! 楽にして、ラクに。 オレ、加藤竜生(かとうたつお)っての。 こんなナリでもクリエイターのハシクレ、 あんたの作品なら大方観てるよ。 お品のいい日本画か・ら・のぉぉぉ~‥ ポルノ絵師…(笑)」 この男‥‥食えない…。 「なんだ‥お前、今日はヤケにエロぃなぁ(笑)しえるクン♪ オレのジュニアおっ勃起()っちゃったじゃん。 今度は俺とふたりきりの時にしろよ、墨の痛みなんかブッ飛ぶくらいイかせてやンよ♪」 「タツオッ!!」 「お前があんまりイイコちゃんだから、思ったより進んだワ。 この調子でイイ子でいりゃ、今日で終了だ。 ‥‥あと6時間‥いけるか?」 「ほ、ほんと!? ・・・・・いける‥‥ヤってやるっ!!」 「待ってくれ!いくらなんでも無茶だ。 この上6時間なんて‥彼の体力が…」 「休みはとるさ、こっちの集中力が持たねぇ。 コイツが根性みせるっつてんだから黙って見とけ。」 加藤は大きく深呼吸し、施術台についた。 私は祈るようにシエルの手をとった。 固く握り返す、シエル…。 凛と輝く黒い瞳が彼の揺らぎない覚悟を示した。 再び彫り進め、2度目の休憩は誰もナニも言葉を発しなかった。 それから更に2時間が過ぎ…3時間が過ぎても加藤に休む気配はなかった。 加藤の凄まじい集中力は、息をもつかせぬ覇気を感じさせた。 時折ニヤリとサディスティックな笑みを浮かべたかと思うと、 険しい面持ちで瞬きも惜しみ彫り進める気迫…。 またある時は柔らかな表情で‥そしてうっとりと…この上ない大切な我が子をいとおしむ母猫のように、神経を鋭利に保った指先がシエルの肌を慎重に這い、愛情深く優しく丁寧に嘗めるのだ。 感動とも嫉妬ともつかぬ感情で、私の気は遠くなる…。 今、この部屋の中には加藤とシエルのふたりしか存在しない…ふたりの(しとね)を覗き観るような淫らで卑しい興奮さえ覚えた‥。 そして気づくと、開始から終了予定までの計8時間はとうに超えていた‥‥ 「…完‥‥璧…」 加藤は崩れ落ちるようにソファの上に身を投げ出した。 聴こえるのは岩を叩く波音‥シエルの微かな呻きと荒い吐息…。 「‥‥よく‥‥頑張ったね‥‥‥」 シエルの乱れた髪を手櫛で梳いてやると、 彼は潤んだ瞳で目を細め、にっこりと微笑んで見せた。 「そのまま寝かせとけ‥オレも…寝‥‥‥」 加藤もシエルも深い眠りに落ちた。 物音に気づくと、未だ眠り続けるシエルの様子を加藤は診ていた。 「おぅ、起こして悪かったな…いい感じ‥オレの渾身の力作!」 直ぐに島に戻っていいものか訪ねると、 「珍しく発熱もないようだし、ボートくらい動かせるだろう。普通に動いてヘーキヘーキ(笑)」 とは、私の心配を余所に随分楽観的だ。 が、今後のケアについてなど、シエルの体調を気づかった上で作品を傷めないよう詳しい説明をしてくれた。 「いつもなら安定するまで俺が手当てするンだけど…コイツの情夫(いろ)なら面倒みれるな…タップリ甘えさせてやってよ」 「いろっ!?ととととんでもないっっ!!」 「アレ?違うの?俺はてっきり‥‥‥ フラれたばっかだからオレ、神龍(にゃんこ)に(笑)」 「・・・・・え?」
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