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その8
「腹減ったな‥」
加藤はキッチンでナニやら物色し、バゲットにバター、スパムと清涼飲料水を数本持ちこんだ。
机の引き出しからナイフを取り出すと、バゲットを適当に削り取った。
「食う?」
私には訊きたい事が山ほどあってそれどころではない。
「ソーか‥あんたが相手じゃねーのか…
なんかアンタと会ってからずっとそんなカンジしてたんだけど‥そーッスか…」
「ふ‥フラれた‥って、どういうことだ?
君…彼とは付き合ってたのか?
彼と、かっ‥関係を‥ももも持った‥!?」
「ハハッ☆その様子じゃアンタもだいぶアイツにイカれてンな(笑)
残念だけど寝ちゃいねーヨ。
無理矢理持ち込もうとしたら投げ飛ばされた☆あのガタイだもんな(笑)」
まずはほっと胸を撫で下ろしたものの、まだまだシエルに関して分からない事だらけだ。
「君は何故シエルに彫物を?」
「依頼されたんだ。俺の彫りに惚れ込んだ男がいて、ソイツに連れて来られたのがシエルだ。
古びた写真一枚‥その人物をシエルの身体に俺の好きなようにデザインして入れてほしいと…」
加藤は食べ掛けのパンを口に放り込みパソコンに向かい、取り込んであった写真の画像を開いた。
そこには背中の美女そっくりの、若く美しい長い巻き毛の外国人女性が微笑んでいた。
「モノクロで分からないが、シエルの髪の色と同じ髪色なんだそうだ」
確かに、背中の美女はシエルと同じ見事なプラチナブロンド…しかも、
シエルの髪が掛かった美女の画が浮き出るような錯覚に見舞われた憶えがある。
「まぁ本人から直接聞いた訳じゃないんだけど、此処等の爺さん達の噂では、
モデルの女は依頼主の若い頃の恋人…昔、この辺で身投げしたンだそうだ‥‥。
叶わぬ恋ってやつ‥‥‥切ないよな…」
パソコンを閉じ、更に続けた。
「その依頼主は最近ここいらに侵攻してきた南部会系…【遠山一家】遠山五十一。
南条組配下になった地元弱小一家の当主だ」
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