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「遠山とシエルの間柄はわからねぇな‥‥。
何も聞こえてこない‥。
俺はシエルの彫りを任されてここに来た余所者だし、つついたってろくなことねーだろうから深入りするつもりもないがね。
俺の目の届く所にシエルが居ればそれでいい(笑)」
加藤は煙草に火を点け、深く吸い込んだ。
「依頼主には見せたのか?」
「未だだ。
ラフもデザインも見なくていいと。
完成したら連絡することになってる」
「先方が‥もし気に入らなかったら‥‥」
「ガキの遊びじゃねンだよ‥俺もシエルも‥
魂削って、人生の誇りを掛けて挑んでる…
言わせるかッ!!」
昂然とした加藤の姿勢は、同じ絵師として頭が下がる‥。
創造する者の滾る情熱を再び私に蘇らせるものだった。
「ほんじゃ今度はオレからの質問イイ?
あいつ‥ステディいンの?
一緒に暮らしてンなら知ってるだろ?」
「‥‥‥‥‥私は、君を疑った…」
「チッ‥空振り同士相討ちかよ、冴えねぇナァ…
冗談抜きにさ…俺はアイツに惚れて惚れてメロメロなワケよ。
もぉ‥堪ンねーのヨ、アイツ!
そこらのお嬢さんなんかよりずっと可愛いし気は利くし‥
あんな大男、本気の腕っぷしでは全く敵わねェのに‥護ってやりたいと心から思っちまうンだなぁ‥‥‥
アイツは、どうしようもなく孤独に弱い‥‥
ソコがなんつーか…漢を立てる!
ヤツに触れた日は必ず手慰みだよ‥今日はまた一際色っぽくて・・・・・辛ぇぇぇ~‥☆」
「…ぅ‥‥ぅ‥ぅン…」
シエルが目を覚まし、加藤は時計を覗いた。
「丁度いい時間だ、シャワー室行くぞ」
「えっ!いや、私が付き添う‥」
「バカ言え!オレだ!!」
「私の役目でしょーが!」
「‥っつ!…身体中‥エヘヘ‥バッキバキだ‥
‥‥‥‥‥
アレ?ふたりとも‥
ジャレ合っちゃって‥‥ナンなの?」
「なんでもないよ。
“美の親和性と心理における行動論”
‥‥加藤君には畏れ入ったよ‥ははは‥ハ」
背中の保護フィルムを丁寧に外してもらい、加藤に付き添われシャワーで余分なインクを流した。
「皮膚が乾いたら、こうしてワセリンを塗って‥‥‥‥‥‥‥ホィ☆おしまい♪
帰っていいぞ。お疲れ!」
「うん…お疲れ様‥‥」
ここへ来たときとはまったく違う穏やかなムードで着衣を終え、私達ふたりはプレジャーボートに乗り込みエンジンをかけた。
加藤が桟橋まで見送った。
シエルは操縦席の窓から身を乗り出し、加藤にハグを求めた。
「深夜の海だ、気を付けて帰れよ」
…と☆
シエルは加藤の頬を両手に包み込み、顔を近づけて‥交わす‥‥唇‥‥‥熱い‥‥‥‥‥
く・ち・づ・け‥‥!!!!!☆
呆然とたたずむ加藤のシルエットが岬の陰に消えた。
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