その8

2/2
65人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
「遠山とシエルの間柄はわからねぇな‥‥。 何も聞こえてこない‥。 俺はシエルの彫りを任されてここに来た余所者だし、つついたってろくなことねーだろうから深入りするつもりもないがね。 俺の目の届く所にシエルが居ればそれでいい(笑)」 加藤は煙草に火を点け、深く吸い込んだ。 「依頼主には見せたのか?」 「未だだ。 ラフもデザインも見なくていいと。 完成したら連絡することになってる」 「先方が‥もし気に入らなかったら‥‥」 「ガキの遊びじゃねンだよ‥俺もシエルも‥ 魂削って、人生の誇りを掛けて挑んでる… 言わせるかッ!!」 昂然とした加藤の姿勢は、同じ絵師として頭が下がる‥。 創造する者の(たぎ)る情熱を再び私に蘇らせるものだった。 「ほんじゃ今度はオレからの質問イイ? あいつ‥ステディいンの? 一緒に暮らしてンなら知ってるだろ?」 「‥‥‥‥‥私は、君を疑った…」 「チッ‥空振り同士相討ちかよ、冴えねぇナァ… 冗談抜きにさ…俺はアイツに惚れて惚れてメロメロなワケよ。 もぉ‥堪ンねーのヨ、アイツ! そこらのお嬢さんなんかよりずっと可愛いし気は利くし‥ あんな大男、本気の腕っぷしでは全く敵わねェのに‥護ってやりたいと心から思っちまうンだなぁ‥‥‥ アイツは、どうしようもなく孤独に弱い‥‥ ソコがなんつーか…漢を立てる! ヤツに触れた日は必ず手慰みだよ‥今日はまた一際色っぽくて・・・・・(つれ)ぇぇぇ~‥☆」 「…ぅ‥‥ぅ‥ぅン…」 シエルが目を覚まし、加藤は時計を覗いた。 「丁度いい時間だ、シャワー室行くぞ」 「えっ!いや、私が付き添う‥」 「バカ言え!オレだ!!」 「私の役目でしょーが!」 「‥っつ!…身体中‥エヘヘ‥バッキバキだ‥ ‥‥‥‥‥ アレ?ふたりとも‥ ジャレ合っちゃって‥‥ナンなの?」 「なんでもないよ。 “美の親和性と心理における行動論” ‥‥加藤君には畏れ入ったよ‥ははは‥ハ」 背中の保護フィルムを丁寧に外してもらい、加藤に付き添われシャワーで余分なインクを流した。 「皮膚が乾いたら、こうしてワセリンを塗って‥‥‥‥‥‥‥ホィ☆おしまい♪ 帰っていいぞ。お疲れ!」 「うん…お疲れ様‥‥」 ここへ来たときとはまったく違う穏やかなムードで着衣を終え、私達ふたりはプレジャーボートに乗り込みエンジンをかけた。 加藤が桟橋まで見送った。 シエルは操縦席の窓から身を乗り出し、加藤にハグを求めた。 「深夜の海だ、気を付けて帰れよ」 …と☆ シエルは加藤の頬を両手に包み込み、顔を近づけて‥交わす‥‥唇‥‥‥熱い‥‥‥‥‥ く・ち・づ・け‥‥!!!!!☆ 呆然とたたずむ加藤のシルエットが岬の陰に消えた。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!