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その11
濡れそぼった美丈夫の髪を乾いたタオルで丁寧に拭う。
スーパーモデル級の引き締まったスレンダーな体、長い手足、小さな顔…
獰猛なサーバルキャットを掌中に収め、自らを恃むかのごとき心地にあった。
(サーバルキャットは、小さなころから慣らせば人によく懐き、猫と同じようにのどを鳴らして甘えることもあるらしい。
訓練すれば賢く感受性が強く、人の気持ちをよく理解するため、犬のように忠実なのだという。)
発見してからどれくらい経ったろう…シエルは私の部屋のベッドの上で意識を取り戻した。
「軽い脳震盪だ、大したことなくてよかった。
でも念のため、波が落ち着いたらオヤジさんに頼んで病院に連れてってもらおうね」
「‥‥‥ぁ‥すみませ‥ん‥‥」
「それにしても君はデカイ‥私の腰の方がイッちゃってるかもしれないよ(笑)」
「‥‥‥‥‥ごめ‥ん‥なさい‥‥」
「‥‥謝ってばかりだな‥‥
(悪いのは私の方だというのに‥)
倒れた外灯は潮でかなり傷んでたみたいだ、他のも一度点検しないと…」
「‥‥‥ほっとけばよかったのに…僕なんて‥」
「バカを言うもんじゃない‥」
その時半開きのドアからシャオがやって来て、まん丸の目玉で熱心にパトロールを始めた。
「居たのか!シャオ…無事でよかった‥‥」
シエルの顔に笑みがこぼれた。
シャオは私の持ち物ひとつひとつ鼻を近付け匂いを確かめては自分の体を擦りつける…猫特有の体臭交換に余念がない。
「そんな臭う?…この部屋にはまだ入れたことがなかったからナ‥
‥‥シャオが見つけたんだ…勝手口の外で君が倒れていたのを。誉めてやってくれ」
彼はゆっくりと上体を起こし、虚ろに伸ばした指先がシャオの耳に触れたかに見えたその刹那…
「‥‥‥!‥‥出海さン‥」
私の背後をシエルの身体が覆った。
「こ‥こら!
まだ動いてはいけない、寝てなさい」
「‥動かない‥‥ほらね‥
こうして…このままじっとしてる…」
シエルの両腕は私の胸の前できつく絡み、私の抵抗を阻んだ。
「また君の冗談か‥分かったからこの腕をどけなさい…」
「‥‥‥‥‥‥‥好きです‥‥出海さん‥」
「!」
「ダメ!コッチ見ないで…ハズぃ…」
私の項に彼の熱い吐息がかかった。
「‥‥‥‥私に…この事態を‥いったいどう理解しろと‥‥?」
「理解しなくていいです‥。暫くこのままでいさせて下さい…」
シエルの濡れた髪が滑り落ち私の頬を嘗めた。
「風邪をひくだろ…」
「ひいたらまた看病してもらえるかな‥‥」
「…とりあえず‥
動けるようならソコのバスローブを自分で着なさい。それから君の部屋へ戻り、安静にするべきだ‥‥」
「冷たいンだね…出海さん‥
脱がしてくれたのはあなたでしょう?」
「君がそんな下品なモノ言いをするとは思ってもみなかった」
「下品‥?ウフフ‥
ボクは下衆で下品なビッチだよ‥知らなかった?
出海さん、あなたとセックスしたいっていつも思ってるよ。わからない?
‥‥わかるはずないよね…あなたの僕はただの給仕‥
でも、それでいいって思ってた‥あなたがこの島にいてくれるのなら…」
「私はここを出るとは一言も言ってないが?」
「…そうじゃない‥‥
‥‥最近のあなたは心ここに有らずで…いつもだんまり…口を開いてもイライラしててばかりだ…
一緒に居るのに‥
寂しくて‥‥寂しくて‥もぅ‥
どうあなたに接したらいいのか僕にはわからない!
僕にはあなたしかいないのに‥
あなたじゃなきゃダメなのに‥‥
あなたが見えなくて…怖くて‥怖くて‥‥怖い‥‥‥」
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