その11

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「手を離せ…」 「イヤだ‥ ボクはね‥出海さんに名前を呼ばれるだけで体の奥が疼くんだ‥‥ 夜は‥出海さんと抱き合う夢を見る‥‥ どうかしてるって思ったよ‥こんなこと今までなかった‥悪い病気なのかもって‥‥」 「‥‥‥‥」 「自分でどうしたらいいかわからない…我慢して‥我慢して‥‥どうすることもできなくて…ある朝目が覚めたら下着を汚してた‥この年で‥おかしいだろ」 私は…私と同様の彼の心の内に触れ、憑物が落ちたように言葉が溢れだした。 「君のことをただの給仕なんて一度も思ったことはない。 ましてやここを出たいとは微塵も思わない。 君を愛さないヤツなんてどこにいる? ‥君は何もかもに秀で、誰よりかわいい。 だから誰からも愛される…私一人の君ではないンだ…。 私に君をなんとかできるようなら会って直ぐにそうしたサ。 高嶺の華に恋の告白をされて嬉しくないわけがないじゃないか。 私だって君がいとおしくてたまらないんだよ、シエル…。 寧ろ君を抱きたいのは私の方だ。 だけど‥‥」 “君には恋人がいるんだろう?”‥‥とは訊けなかった。訊けば彼の心は乱れて、すぐそこに来たはずの幸せを逃してしまう気がした。 「ぼくはそんなんじゃない‥ボクはあなたと‥出海さんと寝たい‥‥‥下品だよね… 僕が…気持ち悪い‥? 僕が身体ばかりデカイ‥しかも男だから‥」 「私はゲイだ‥ 上等じゃないか、デカいシエル」 「‥え‥‥‥‥」 「受け入れるしかないだろ? ‥君の気持ちは私の想いだ‥‥ でもその前に‥‥‥‥‥‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥後悔だけはするなよ」 よくもまぁ‥鷹揚に構えて見せたものだ。 実のところ、この時の私ときたら一心不乱で貧乏揺すりを止めるのが精一杯‥‥今にも食らいつきたいほどシエルに飢えていたくせに‥‥。 コクンと頷くシエルの横で私は裸になり、横たわるシエルの上に身体を重ねた。 互いの胸の鼓動が伝わる。 シエルにくちづけしようと顔を上げ‥あげ? あ・げ・・・ ‥‥‥上がらない!!? 私の首はシエルにガッちりとロックされ身動きがとれない! シエルはと言えば、 この上ない至福の笑みを浮かべ、密着する肌と肌の触感を存分に堪能している様子…。 「シ‥シエル?これじゃ動けないじゃないか‥‥キスぐらいさせろよ…」 「‥‥ン‥なに?‥‥‥ああ‥しあわせ過ぎる‥すてき‥出海さん‥‥大好き‥‥‥」 「な‥なぁ‥私とするンだろ?この腕をほどけ!」 「気持ちいいね‥出海さんは‥‥ 好きな人とするセックスって‥あったかい ンだなぁ…」 「はああああああああぁぁ!? ‥ばっ‥違あああぁーーーーうっっっっ!! こんなの違うだろっっ!?」 「‥‥‥はぇ‥?」 シエルの弛緩した腕から漸く抜け出せたものの、私はシエルの横でゼエゼエ荒い息をついていた。 頬をさくら色に染めすっかり上気しきったシエルの顔がそこにはあった。 「‥シ‥シエル‥‥‥君はもしかして‥‥セックスを知らないのか?」 「なんで?最高だったじゃん♪ ‥‥こうやって男性と女性が裸で抱き合うと赤ンボができるんでしょ?愛し合う二人が気持ちよくなって幸せな赤ンボは生まれてくるンだ。素敵だなァ… スゴいよかったよ出海さん‥‥残念だけど‥僕たちどちらも男だから子どもは諦めるしかないな…」 「もしかして‥‥初めて?」 「ウン、初めて‥‥嬉しい♪夢みたいだ…」 よよよ‥幼稚園児かっ!? 二十歳も越えたこの男の性知識はいったいどうなってる?!! 奥手にもホドがある!!! シエルの言ったビッチってなんなンだ? 格闘家か?格闘家は全員ビッチなのか!? 「…シエル‥‥‥‥手淫って知ってる?」 「?‥‥ナニ?」 私はシエルの背後に回り、シエルの陰茎を握りしめた。 彼のソレは、それはそれは美しい薄桃色に剥離しており、衛生上の手入れが施されていることは認識できた。 「ひっ!ちょ‥なに‥‥出海さ‥‥‥ンっ」 瞬殺 「自分で触ったりしないの?その‥こうして抜いたりとか…疼いた時ってどうしてた‥‥?」 「抜く? 無闇にこんなとこ触っちゃだめだよ… 最近ヤケにパンッパンで痛むけど、たまんないときは筋トレやってると萎んじゃう‥‥」 恐るべしこの男‥ 恐るべしチェリーボーイ・・・・・ 「いいか?今度私が原因で我慢ができなくなったらこうやるんだ」 私はシエルの掌に彼自身を握らせ、そこに私の手を添えた。 ゆっくり上下に反復し彼の様子を伺う。 黒い瞳を固く閉じ、速度を速めていくにつれ、次第に身を捩り声を上げた。 「あ‥あ‥だ、だめ‥そ‥ン‥‥や‥なんか …へん‥‥‥ひぅっ‥‥‥ぁは‥ん……」 「まだだ‥我慢して‥‥‥‥‥クッソ‥コッチがイきそうだ‥‥‥‥‥‥‥‥ ‥‥‥‥‥‥‥ ‥‥‥♪‥‥フッ‥‥‥どぉ?」 「。。。。。。ぁふぅぅ‥♪」 これ以上先は封印した。 性に頓着してこなかったシエルには過激だと思ってのことだ。 この夜私は、私の腕の中のこの上ない安らぎに満ちた無垢な寝顔を眺めて過ごした。 私は未来永劫シエルを愛する為…いや‥ 彼と私自身の永遠の愛の絆として、 ひとつだけシエルに嘘をついた。 「私は君が大好きだよシエル。 だが私には絶対に譲れない恋しい人がいる。その人のことも含めて私を好いてくれるなら、私は君の思いにこれからも応えたい。 どうかな?」 「‥‥‥‥‥‥ …その人も出海さんのこと想ってるの? ボクが想う以上に? ‥だったらいい。 それでもボクにはそんな出海さん以外いないンだし、ボクの方がもっとずっと出海さんを愛する自信あるから♪」 私が誰にも譲れない恋しい人は、もちろんシエルの他にない。 これでおあいこだ、シエル… シエルに本命が存在しようとしていまいと、私がシエルに気兼ねすることはなくなる。 彼は私よりも若い…。 確実に私は彼より先に老いさらばえる。 シエルはいつか孤独を知るだろう。 孤独に耐えうる‥ひとりの男にならなければいけない。 いつか誰かと結婚し、子供をもうけ、暖かい家庭を築いてほしいと心から願った。
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