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その2
「はぁ‥やっと落ち着いたァ‥‥
改めまして、ようこそ当オーベルジュへ。
ご覧の通り、この島の住人はボクひとり、ご用があれば大声で呼んで下さいね。
【シエル】でいいよ。歳はもうすぐ22。
…佐々木さんは‥‥‥‥‥‥42☆」
「‥当たり…え‥なんで?」
「やだなぁ(笑)予約のとき伺ったじゃない」
そこへ真っ白な猫が一匹、シエルの足元に刷り寄った。
「ゴメンゴメン、シャオも大切な島民だ…」
そう言って猫を膝に乗せ微笑んだ。
「愛らしい子だ、君によく似てる」
「そぉ?小龍って云うんだ。半年前誰かが置いてった」
「宿泊客?」
「わかんない‥どうでもイイ、この子が来てくれたお陰で商売繁盛だもの(笑)」
「ヘェ‥招き猫だ」
「そう、で‥急に忙しくなり過ぎたものだからボクもパートさんも少しマイッちゃってて、そこに佐々木さんの依頼があってね、スゴく助かった!
地元のみんなに心配かけずボクも暫くのんびりできるからネ(笑)」
猫がこちらの様子をを伺うように身体を起こし「にゃぁ」と哭いた。
私は猫を受け取り、しげしげと顔を眺めた。
「‥アノね‥うちとしては長期貸し切りはホントーーーにっありがたいンだけど、長く滞在して下さる上で事故とか病気とか‥あなたの身にあってはならない万が一の時の為に訊いておくよ…」
「ん?ナニ?」
「佐々木さん‥【結婚】は‥してらっしゃらない‥の?」
「うん、妻も家庭も‥家族もない」
(彼も私に興味を持ってくれた‥?)
と、仄かな期待を懐いたものの‥‥
「ウッソ‥マジ?
‥‥だから3ヶ月もバカンス可能ってワケだ!」
しつこく悩まされ続けた疑問から漸く解放された…といったところか(笑)
「ハハハ、そういったことに縁がなくてね。得たいの知れない絵描きになんて、女性が興味持つワケ無いだろ?
このまま一生ヤモメ暮らしかな。
言っとくが、此処で厄介になるのはバカンスではなく、仕事に集中する為だからね…一応(笑)
独りが好きなんだ…時々雑音だらけの世界から逃げ出したくなる‥」
「…寂しくはないの?」
「幼少期に母を病気で亡くしてね‥、独りには慣れてる。
母が病床に着いた頃には、すでに父には別の家庭があったンだ。
其方の家族とは一切面識がない…私がそれを望まなかったから。
私は叔母に面倒を見て貰いつつ、父は二つの家をマメに行き来して私のことを十分支えてくれた。
だけど私は勝手に海外に進路を決めて自立し父の養育を抜けたんだ。父とはそれっきり…。
そうだな、私にもしものことがあったら‥‥ここに連絡して…」
そういって担当編集者の名刺を差し出すと、彼はソッと受け取り「‥ごめんなさい‥‥」と呟いて口をつぐんでしまった。
「イヤ‥君が謝ることはないよ、宿の責任者として当然じゃないか。
気にしないで…」
彼は気まずそうにうつむきコーヒーを注ぎ足した。
「“シエル”って空って意味だろう?
良い名前だね。君のルーツはフランスなのかい?」
「♪アハッ!
母がね、生まれも育ちも日本だけど(笑)
父方の祖母はノルウェーで祖父が日本。
叔父は台湾人と結婚して‥トルコ人と結婚した従兄弟がガーナ人と浮気しちゃって‥‥
とにかく祖父母の代で帰化してるから、これでもボクはバリバリの日本人(笑)」
話題を変えると、忽ちクルクルと表情を変え、身振り手振りで話し始めた。
立派なガタイをしていてもまるで小さな子どもだ。
「ほぉ‥これはまた国際色豊かな!
その黒い瞳はお爺様譲りってワケか…」
「見た目こんなだからガキの頃から弄られっぱなし‥髪を黒く染めてもこの顔じゃあね‥」
「私のようなアジア代表には、君の美貌は羨ましいかぎりだがね‥ホレボレするよ」
「あ~あ‥口が上手いね、佐々木さんは。
…けど、お世辞でもあなたにそう言って貰えるならバタ臭いのも悪くない」
「…バタ臭い‥‥プッ‥お世辞なんかじゃないさ(笑)‥だったら、私なんて磯臭い…」
「アハハハハ☆
そうだね、ちょっとハマチっぽい?」
「ハマチ!?えエエエ‥」
「ジョーダン!(笑)
‥ね、ファーストネームで呼んでいいかな?いずみさん♪」
「え?‥ぁぁ、かまわないよ」
「いずみさん、ほんとはモテるでしょ…。
だってイケメンじゃん?
立ち居振舞いもスマートだし…なんたって優しい♪」
「おいおい、オヤジつかまえて何を言い出すかと思えば…買い被りすぎじゃないか?
客だからって誉め殺しはカンベンしてくれ(勘違いしちゃうじゃないか…)」
「おべんちゃら使ってまで顧客を繋ぎ留めようとは思わないよ…」
「おっと‥気に障ったのなら謝る…
でも本当に私はそういう紳士のような人間ではないんだ。根暗で邪な…要注意人物さ」
「そーなの?
それはソレで興味わくね♪この先どんなあなたが暴かれてくか…(笑)
ボクの仕える王様は、ミステリアスなカリスマでなくちゃ☆」
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