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「こっち向いて、目を閉じて‥」
フォンの両頬がシエルの掌に包まれ、ふくよかな赤い唇が近付いたと思うや、瞼に口づけ、フォンの頬に長い睫毛がパタパタ目瞬いた。
「眠れるおまじない?へへへ‥
今の俺に効くかぁ?
昔はよくやって貰ってたな‥こぉやって、蝶々のキッス‥
ほんと‥よく‥眠‥れ‥‥た‥‥‥zzz …」
「‥‥‥
うふっ♪効いた‥
‥‥おやすみ‥フォン…」
灯りを落とし部屋を出たシエルは、ドアの外で深呼吸し一頻り感慨に耽った。
彼の胸に光る指環を目にして、有らぬ感情が芽生え戸惑っていたのだ。
初めてフォンを抱いた最後の神事の日、
環は言っていた。
《フォンは自分の分身‥生まれ変わり》
だと…。
環が身罷ってそんなこともすっかり忘れていたシエルに、あの時の台詞がフ‥と胸に落ちてきた。
(違うだろ‥違う違う!
フォンはフォン、環さんじゃない‥
‥‥僕‥どうかしてる‥‥)
これから先は彼自身が定めた道を歩いていく。
自分が彼にできることは、彼の無事を祈り待ち続けることだけなのだ。
翌朝、普段通りの朝を迎え、朝食を摂り、フォンは出発の時間まで岡の庭木の手入れを手伝った。
シエルとハルはテラスにテーブルの支度を整え、ケンジのボートが桟橋に着いた。
「おっ♪ナイスタイミング☆うっまそー♪」
「フォン、シャワー浴びてこようぜ」
「おう!」
シエルは親しい内輪だけの小さな宴を開いた。
「え~‥では、フォンのオネショに散々泣かされた岡が、僭越ながら追い出し会乾杯の音頭をば…
【フォンのオムツ】にかんぱーい☆
とっとと出てけ~☆」
「ひでェ・・・」
(笑)
「立派になりました‥寂しくなるなぁ‥‥
二代目にも見せてやりたかった…ゥゥ‥」
「ハルさんってば‥
夏季休暇は寮が閉鎖になるんだ、直ぐに戻るのに(笑)」
∞∞∞∞∞
「そろそろ出発の時間だ、ボートで待ってます」
ケンジはボートに乗り込みエンジンをかけた。
フォンが支度を整え皆の待つ桟橋に向かうと、すっかり老猫となったシャオがどこからともなくやって来てフォンの足下にすり寄り、顔を見上げて「にゃあ‥」と鳴いた。
「コイツも見送りですかね…健気な奴‥」
「長生きしてくれよ‥シャオ‥‥
それじゃ、行ってきます!」
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