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「やあ、シエル。
急なんだが、今月部屋は空いてるかい?
無性に旨いものが食いたくてね…、
竹脇も有給消化命令で躰をもて余してるって云うンで、やもめ同士のんびりすることになって‥‥ハハ‥
2名予約を頼みたいンだが…」
「丁度よかった!
僕も出海さんに話したいことが。
来週‥中三日を貸切りにできる、どお?
‥‥‥‥ん、待ってるよ♪
鰆が旬だ、良いのが揚がってる。
腕によりをかけるから期待してて☆」
本当は、遠い広島に息子を送り出したシエルのことが心配で、居ても立ってもいられなかった。
フォンの見送りにも立ち会うつもりが、
生憎出先からの移動が困難だった為…断念。
(あいつ‥シエルにはきちんと自分の胸の内を明かしたンだろうか‥?)
心配の大元はソコにあった。
今のところ、電話の感じからはシエルに特に変わった様子は窺えない。
単純な私は、彼の「待ってるよ」の言葉に只々有頂天で、速攻竹脇に連絡を入れるのだった。
「此処に来るのは何年ぶりだ?
宮本の葬儀以来か‥‥
変わらない場所があるってのは良いもんだ。
フフ‥若返るなぁ」
「いつの間にかお互い白髪も増えた‥。
寿命や感じかたは其々違っても、過ぎゆく時間だけは生きてさえいれば何人にも等しく流れる。
不思議だな…私はこの変わらぬ風景に包まれるといつも躰中の細胞総てがリセットされる気がする‥」
「失った恋も‥?(笑)
実年齢忘れて発情すンじゃねーゾ。
【画家 佐々木出海氏☆老いらくの恋か!?
同性愛の末‥腹上死!!】
なぁ~ンて、洒落にもならんからなっ(笑)」
「…無きにしも非ずだ‥」
「ばっ‥バカヤローーーッ!おまっ‥
まだ懲りねーのか‥‥‥‥‥‥ひくヮ‥」
そこへ岡のボートが到着した。
「佐々木さん!
お久し振りっス、乗って待ってて下さい!
すぐに出ますから」
岡は漁協が準備してくれた荷物を手早く船に積み込み、また舵を握った。
「岡くん‥さっきの事務所の女性…イイ雰囲気だったね‥隅に置けないなァ(笑)」
「彼女ッス、そろそろ身を固めようかと‥。
子ども‥欲しいンです、子どもが好きなんですよ‥俺。
施設でも赤ん坊の面倒みンの得意だったし、結構頼りにされてたんっスよ☆
シエルさん見てたらナンダカンダ言いながらだって、フォンを育てることが楽しそうじゃないですか(笑)
家族作りたいって思っちゃいますよ。
肉親てのがどういう感じかわかんねぇけど、
親方見送る前に『ありがとう』なんて言われちゃって‥‥‥嬉しかったです…。
それなら子沢山の大家族ってのも悪くないかもって(笑)
自分、母親がコインロッカーなんで‥」
環はある日、空港で置き引き騒ぎを起こした身寄りのない少年を香港に誘った。
後日環を追って香港に渡った少年の直向きな人柄を見初め、環は自分の側に置いた。
すっかり大人になった陽気な岡が、今も時折見せる伏し目がちな眼差しには、誰にも拭ってやることのできない深い孤独と寂しさが滲んでいた。
もしかしたら、
環は岡に対して一方ならぬ情を懐いていたのかもしれない。
そして岡も‥‥環が望めば、迷いなく身体をも開いたことだろう。
肌の温もりと安らぎを求め孤独をさ迷う男たちは、男同士命の刹那を賭けた氷の絆を結ぶ。
それは気高く頑なで‥そして儚い‥‥
だからこそ、
何よりも美しい…と、私は思うのだ‥‥‥。
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