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人魚の声
「関東では塩焼きや西京漬けが美味しい真冬の“寒鰆”が好まれるンですが、
春のサワラも刺身や白子が絶品で関西ではより人気です。
‥‥お二方のお口に合うかどうか…」
「ウン☆旨い!いや流石だよ♪
料理が旨けりゃ、ムサい男旅も華やぐってもんだ(笑)」
「ハルさんのお料理は初めてだっけ?
ハルさんの賄いは男飯だけどスッゴク上品でしょう。おかげで遠山の人達は口が肥えてて気が抜けないよ(笑)
若い頃は大阪北新地の有名小料理屋さんで腕を研いたんだよね☆」
「研いたって程じゃ…ハハッ‥
コチラはしえるさんがポアレに、お好みでレモンを絞ってどうぞ♪」
「‥‥ほぅ‥‥こっちもまた負けてないな(笑)
日本酒に合うフレンチなんて乙じゃないか♪
素晴らしい☆胃袋が歌いだすようだ(笑)
今夜はとことん飲んだくれるゾ~!」
「ねぇ、ハルさん‥岡くんも!
みんな座って座って☆一緒にヤろうよ!」
∞∞∞∞∞
「そんじゃ‥俺等この辺で失礼します。
ごゆっくりおくつろぎを、おやすみなさい」
ハルさんと岡は組の厨房を手伝う為、椿寿庵には戻らず港へと移動した。
歳のせいにしてしまえば何事もさもありなん…。珍しく酔い潰れてしまった竹脇を寝室に運び込み、寄る年波を憂いてみせる。
「竹脇は弱くなったなぁ…
我々もいよいよ無茶のきかない年齢になったってことかナ(笑)」
「竹脇さんは気苦労も絶えないだろうからねぇ‥幼馴染みが鈍感だと(笑)」
「幼馴染み‥‥て、私のことかね?」
「フフフ‥さぁて♪
夜はこれから…もう一献☆」
シエルとサシで酒を酌み交わすのも久方振りだ。
広いテラス窓の夕闇に港の灯りがユラユラ揺れ、洒落たバーラウンジの照明を思わせる。
「…静かだな‥
お客がない日はどうしてる…此処に独りで居るのは厳しいんじゃないのか?」
「ン‥まぁ‥
フォンが居る時みたいに『It's My Life』でも大音量で流してやるのサ(笑)
仕事は山ほどあるし苦じゃないよ。
ただ、ついネ‥つまらないことを考え込んじゃうことも…」
「フォンのことで?」
「‥あの子ね‥‥ゲイ‥若しくはバイセクだと思う…」
「ナニか問題が?」
私には大方予測はついていた。
「問題‥ていえば問題‥かな…」
「フォンに関しては心配事が尽きないね‥‥彼とナニかあったのかい?」
「‥‥僕と寝てくれって‥押し倒された…」
「いきなり!?‥‥バカだなァあいつ…」
「え?え?え?
…驚くトコ違ってない?
僕の息子が欲情した相手は親である僕なんですけど…?」
「悪い…
フォンが君に懸想していることは知ってた。
私が彼にけしかけたようなもんなんだ‥
すまん!」
「けしかけた‥て、出海さんはフォンと僕に関係持たせようと?
‥‥‥意味わかんない‥‥」
「結果的には、そうなることも前提さ。
ただ、まさか彼がそんな強行に出るとは‥‥
申し訳無かった…意気がってる割に恋愛は奥手だったんだな‥‥。
だけどね‥‥解ってやって欲しいんだ。
これは彼の君への思い…彼なりに苦悩した末の結論‥‥しかも‥初恋。
真摯に受けとめてやってくれ…」
「やめてよ…フォンの可愛い初恋は竹脇さんだよ‥‥。
アハ‥僕‥男旱長いからな…よっぽど物欲しそうにして見えてたンだろうね‥‥
息子から情けを施されることになるなんて…情けない‥」
「違う。
どうしてそう卑屈になるかな…。
彼の思いは本物で真っ直ぐだ。
それが決して若さによる勢いだけではないことは彼がこれまでしてきた努力を見れば解るだろう。
全部、君を幸せにしたいが為じゃないか…」
「僕は隙だらけ‥欠陥だらけの人間だから…
いつも大切な人を傷付けてしまう‥‥。
こんな奴が人に恋していい筈ないでしょ…」
「恋‥してるんだね‥‥フォンに‥」
「可愛い息子を恋しく思ってちゃ悪い?
でも‥僕の息子は目の前を通り過ぎて、
いつの間にか大人になっていた…。
‥‥嫌だったけど…嫌じゃなかったんだ‥
僕を押さえつけるフォンの力強さが‥‥。
僕の母性や父性がどう抵抗しても、あの子の‥環さんの面影には一溜りもないよ…。
‥‥フォン‥てば‥‥懐かしいあの人と同じ匂いがした‥。
‥なんで‥フォンに彼の指環なんて渡したの‥‥
思い出しちゃうじゃないか‥あの人が僕の夫だった日々を‥‥
出海さん、
あの指環のこと‥環さんは何て言ってた?
環さんはどうしてあなたに譲ったの?
僕に内緒でどんな遣り取りがあったのか教えてよ‥‥ねぇ‥出海さん…」
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