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私は病室での環との会話と自分の心境を偽りなくシエルに伝えた。
「内緒にしてたわけじゃない‥敢えて話すことではない無いと思ってね。
私は環を前に、君たち親子を見守り支え続けようと心に誓った。
環の結婚指輪から、彼の無念を受け取ったんだ。
私は君の心まで独占しようとは思わなかった…無理強いしたところで君が幸福なはずはないだろう。
ところがフォンはどうだ?
その存在だけでまんまと君を独り占めだ☆
環も向こうで苦虫潰してるだろうよ(笑)
彼も幼いなりに君を護るために必死だったんだと思う。
‥‥一度、フォンに驚かされたことがある。
フォンが小学校4・5年位のクリスマスディナーだったかな。
君は忙しくキッチンを切り盛りしていた。
テーブルに着くと、私がここのスタッフと親しいとみた若い女性客達が話し掛けてきた。
君に熱をあげているらしきそのグループは、やたら君のプライバシーに探りを入れてくる。
下世話な好奇心…君に恋人はいるか、同性婚していたという噂は事実なのか、女性は恋愛対象にないのか、性指向は…。
返答に困った私の差向いで、フォンがビーフシチューを切り分けながら彼女たちに言い放った。
『お姉さんたち、僕のお客様に失礼だよ。
――出海さん、こっちも食べてみて♪
すンごく美味しいよ――
僕が出し抜けに…コチラのお友達は女なの男なの?…て訊ねたら、お姉さんどう思うかな。
…お姉さんには恋人いないの?
男が好きなの?お姉さんのパパは女好き?
…知らない人に突然そんなこと訊かれたらナンかムカつかない?
ほ~ら、今だって僕のこと
“変な子…嫌な感じ”って思ってンじゃん?
自分たちのこと棚にあげてサ☆』
痛快だったね!
女の子たちはシドロモドロだったよ(笑)
フォンは平然とプディングを頬張ってた♪」
「そんなことが‥‥」
「『ボクの父上が好きになったシエルはたまたま男だったってワケ。
ペチャパイだとか、肌が黒いとか、尻尾が長かった、テンパーだのハゲだの…って、ソーユーことのひとつ。
シエルと父上だって同じ、何も男が好きって理由で結婚したんじゃないよ。
お互いのことが素敵でカッコよくて好きで好きで最高過ぎたんだ。
僕のこともスゴく愛してくれて僕らは家族になったの。
心配ないよ、シエルは出海さんのこともダイダイダイスキ!
みんなファミリーだから♪
シエルは僕の世界一のママンダディだもんね☆』
私は叫びたいくらいに嬉しかった!
フォンにはちゃんと解ってたんだ。
愛に世間の常識など通用しないってことが…
環とフォンは一心同体‥容姿だけでなく彼は立派に環の魂を受け継いでいる。
私は環から預かった物を還しただけさ。
結婚指環はフォンに、君を‥‥環へ。
持つべき人の元へ戻したに過ぎんよ(笑)」
シエルは涙ぐみ両手で顔を覆って肩を震わせた。
「君たち親子は幸か不幸か血縁にはない。
フォンは恋を知ったんだ…君と幸せになることを目標に、過酷な訓練への覚悟を決め、此処を巣立っていったんだと思う。
‥‥‥受け入れてやりなさい‥シエル…」
「正直に言うとね‥‥、誰かに触れて貰わなきゃ‥抱き締めていてくれなきゃ…粉々に砕けそうなんだ‥‥‥。
フォンを送り出してからというもの、何も手につかなくて…。
これから5年間を空虚にやり過ごすだけなのか…。
フォンが卒業して前線に出るようになったら、僕は本当に独りぼっちで老いていくだけなんだ‥‥って‥‥」
思わず私はシエルの肩を抱き‥口づけしようと顔を寄せた‥‥が、彼の目尻から零れる涙が思い止まらせた。
私は彼の涙を拭い抱き留めることしか出来なかった。
「僕に触れちゃダメだ…!
ひとりで環さんを思い続け‥あの子を待つ自信がない。
僕はそのうちに形振り構わずあなたにすがって身を委ねてしまうよ‥自分が信用出来ないんだ‥‥。
フォンを‥愛してるの‥‥
僕は、フォンを親子以上の存在に押し上げてしまってたんだ…。
出海さん‥‥たまき‥‥‥許して下さい‥
もう一度‥フォンに抱き締められたいの…。
身勝手だと‥裏切りだとわかってる!
環さんも‥‥あなたも‥踏み躙って…愚かだ…
僕は‥人でなし‥最低‥‥淫‥乱‥‥アハッ‥
‥‥‥‥‥畜生ッ!!」
「君を愚か者にした張本人は命懸けで訓練に挑んでる。
今ここで私が君を抱いたら、僕らは一生後悔し後ろめたい人生を送ることになるだろう。
彼が君への変わらぬ思いを貫いていても、
全く心変わりしていたとしても、
将来の彼がどうであれ、私達は堂々と彼を迎えたいじゃないか!
彼の清々しいとびっきりの笑顔を…。
いざって時は私が慰めてやるサ(笑)
独りで待たなくていい…焦らないで。
ふたりでフォンの帰りを待とう」
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