人魚の声

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「‥シエルを泣かしたな? 俺が潰れてる間、彼に何をした…油断も隙もない男だ‥」 竹脇がリビングの扉にもたれ掛かって立っていた。 「おぅ!生還したか。 しっかし‥(笑)立ってるのがやっと‥といった風体だナ‥ 折角二人っきりのいいムードが台無しじゃないか…もう少し休んでろ、糸コンニャク(笑)」 「ヘッ‥糸コンニャクときた‥ まだまだ宵の口だ、酒をよこせ… ォォ‥可哀想なシエル‥‥泣かないで、 こんなムッツリ絵師なんてほっといて俺と飲みなおそうぜ♪」 「‥ダレがムッツリだ…」 「んぁ?ムッツリゲイなんてここにはおまえ以外いないだろう‥ タチの腰砕け(笑)挿れさせても貰えてねーくせに性懲りもなくテメェま~だシエルのことを‥」 「プラトニックと言え! ガラが悪い上に頭も悪い編集だなっ!」 「やめてヤメテッ! もおっ‥二人とも言葉が過ぎる、罵り合うんなら外でやってくれ。 ‥‥竹脇さん、僕達なら大丈夫。 …出海さんは無闇に変なマネなんてしやしませんから。 少し出海さんの助けを借りて、自分の気持ちに整理つけてたところだったんです…」 「ふぇ?‥‥イヤイヤイヤ‥(笑) ソリャ変な気起こすでしょ、ネクラなエロ絵師にお悩み相談なんて‥危険キケン! 俺がいなきゃどんな目に遇わされていたか… あンなこととかこンなこととか‥」 「テメ‥どんだけヒトを変態枠に捩じ込みたいンだ? こんなジェントル他にいるかよっ おまえこそ口を慎め! このショタコンオヤジッ☆」 この手のなじり合いは我々にしてみれば毎度の戯れ言で、いつもの竹脇なら一笑に伏して報復するところのものであった。 が、この時の彼は少し妙だった。 私に罵倒され、ガックリと肩を落とすのだ。 「・・・・・ショタ‥コン‥ ‥‥‥‥‥‥ ‥‥‥‥‥だよな‥‥‥ハハ‥まったく‥」 「また…出海さんっ! ヒドイじゃないか、いくら幼馴染みだからって‥‥ ‥た‥竹脇さ‥ん‥?」 「…いいんだシエル‥佐々木のいう通りだ‥ ‥‥‥‥‥未だに俺は‥‥‥ク‥」 「なんだナンダ、今度は泣き上戸か? おまえの欠点は性癖だけじゃなく酒癖の悪さも殿堂入りだな(笑)」 「茶化さないで。 真面目に聞かなきゃ駄目だよ。 ‥‥‥なぁに?竹脇さん… つかえてるものは吐き出さなきゃ‥ いくらタフなあなたでも、いつか心は軋んで折れてしまうよ‥‥」 「…俺も歳かな‥‥最近涙脆くて… ‥‥‥こればかりは‥墓場まで持ってくつもりだった‥‥でもな、佐々木‥」 「え?」 躙り寄る竹脇梓(58)定年まであと7年… 私の唇は竹脇の熱いベーゼに塞がれた! 「‥mgu‥‥‥ぶわあああっっっ!!! やっヤメロッ!竹脇っ!チョッチョッチョッとーーーーーーーーーーーーーっっ! ヤヤ‥ヤメテヤメテ!ゴメンナサイゴメンナサイ‥」 「えエエエエッッッ!?竹脇さんっ! どーしてっ!??シッカリして!! 竹脇さんてばっ☆ うぅぅぅ‥‥エイッッッ!!!」 シエルの羽交締めで難を逃れた私は、ショックで暫く壁際から動けなかった。 「大丈夫?竹脇さん‥乱暴してごめんね‥、 悪酔いかな‥‥お水‥飲んで‥‥落ち着くよ…」 シエルがグラスを傾けてやると、竹脇はほんの少し口を着けたものの片手で押し返し、頭を抱え込んだ。 「‥俺は正気だ… …悪かったな‥‥‥佐々木‥」 「‥竹脇さん‥‥」 暫く沈黙が続き、漸く竹脇が口を開いた。 「俺な‥ お前が恋愛をしくじる度、ほっとするんだよ…成就しなくてヨカッタ‥ってサ‥ フフフ‥ 傷ついたおまえが俺の大好物だ…」 「悪趣味な‥‥、だがソレがどうした。 確かにおまえは私の傷心を癒す手腕に長けてた…ガキの頃からそうだ。 鬱ぐ私を慰めるでもなく、気付けばいつの間にか私はおまえのペースで笑ってるんだ‥ありがたかったよ、感謝してる…。 だから?‥ち‥チュー‥って‥? ‥‥サッパリ意味がわからん…」 「出海さん、竹脇さんはね‥」 「よせ、シエル… コイツの鈍感力様サマなんだ‥‥フフ‥ 半世紀だぜ、俺達‥‥よく続いたもんだと思うよ。 俺は佐々木の才能を食いものにして生き永らえてきたんだ。 この上心まで自分に寄せようなんて虫が良すぎる‥。 俺には佐々木が必要だった…それだけさ…」 「それだけ‥って‥‥‥益々わからん… 私だって竹脇を信頼してるし、おまえ無くして俺の今はないよ。 おまえあっての私だ。 そんな野暮なセリフを、いちいち言わせたいのか!」 「だから‥それで良かったんだ、俺達は…」 「竹脇さん!どうしてそんな言い方しか出来ないんですか!? 言ってよ、 出海さんを好きだって‥ ずっとずっと出海さんだけを見てたって! 出海さんには解らないの…近過ぎるから‥ 竹脇さんはあなたから目が離せなかったんだよ、半世紀も‥‥ あなたが世界で一番大切な人だから!」 「…竹脇が‥私‥‥を?」 「そうだよ。 あなたが辛いときも嬉しい時も、いつも傍に居てくれたのは誰? ちっちゃな頃からずっと出海さんだけを見つめて、出海さんの才能を信じて支え続けてた竹脇さんの気持ちが何なのか‥‥ どうしてあなたにはわかんないンだよっ! いずみのニブチーーーーーンっ!!!」
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