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結婚式
神社の控えの間にて、
フォンは仙台平の袴、環の形見‥黒紋付に袖を通した。
一時は進級も危ぶまれたフォンが、ストイックに勉学・肉体強化に励み、最終的に4年間の本科を首席で終えた。
何によって過酷な訓練のモチベーションを維持できたかは、我々の目には明らかだった。
その後、練習船による6ヶ月間の世界一周遠洋航海実習などを経て、3ヶ月の実務教育を終了。
フォンは、第三管区海上保安本部 横浜海上防災基地への配属が決定した。
そうして漸くふたりは婚姻を結ぶ運びとなった。
「二代目が‥お還りになった…。
実に‥‥実に久しゅうございます‥‥グスッ‥
フォン、いや‥二代目!
お帰りなさいませと言わせてくれィ!」
三代目遠山組組長 高柳健児(ケンジ)は頭を垂れて涙ぐみ、
ハルさんはフォンの手を握って啜り泣いた。
「まだまだ子供だと思ってたのは、この老いぼればかりでしたナァ‥‥ズビッ‥
ご立派ですよ坊っちゃん‥いいや、若ァ~‥
‥ほン‥‥っとに、立派になられた‥」
「ケンジさんもハルさんも‥
継承式じゃないんだって…もぉ‥(笑)
俺とシエルの結婚式☆
ほら、笑って笑って!
‥‥俺、そんなに親父に似てるかな~?
アハッ‥写真っきゃ知らないからわかんねーや‥‥」
フォンの照れ笑いも、父親を知る訪問者が同様の感動を一様に口にするため、次第に困惑に変わっていった。
そこへ、メタリックグレーのタキシードに身を包んだシエルが環の遺影を抱いて現れた。
「遅れてごめんね!君の父上を連れて来るの忘れちゃって、島に戻ってたら…
‥‥!?ぅそ‥環さ‥‥‥‥‥ァハ‥ァハハ‥
‥本当にあなたは‥‥フォン‥?」
「☆yes sir!
只今飛行機雲より宮本環降下!
『よぉ、シエル‥元気だったか?』
…なんつて‥
へへ‥親父の写真を真似てオールバックにしてみた♪ど?似合う?」
「ヤだ‥もー…ぅ‥ぅ‥ぅエエエエエェン‥
に‥似合うよぉぉ~似合いすぎだよぉぉぉ‥
グス‥グス‥バカバカ‥フォンのバカァ‥‥」
私はシエルに胸を差し出した。
「コラコラ‥フォン(笑)
そのおフザケはアウトだよ」
「おっとと‥☆
シエルだって超イカシてんじゃん!
シエルは親父ン時の和装よか、断然コッチのがカッケー♪」
「グスッ‥君は‥ててとまるでおんなじ‥
漢らしくて色っぽいね‥‥
ちっとも変わんない…好き♪‥(笑)」
‥‥と、結局アテられる羽目に…。
フォンは環の遺影を覗き込み、
「でもな‥見てろよ、親父ィ‥
俺は親父みたいにシエルを泣かさンぜ。
絶対幸せにするし、幸せに…俺はなるっ!」
と、中指を立てた。
「そぉ?‥‥フフ‥嬉しい♪
(フォンは頼もしいね、環さん‥)
これで僕を最後に看取る権利は君のもの‥。
…だからね、フォン…
君の勇敢な仕事は君自身にも危険なんだということ‥くれぐれも忘れないで…」
「うん、わかってる。この指環に誓うよ…」
―――
御来賓の皆様、お席にお着きくださぁーい!
宮司参りまあ~す!
―――
バカだナ‥俺は‥‥‥、訂正!
もうとっくに幸せじゃん☆俺!
僕も‥‥‥‥しあわせ♪‥フォン…
宮本が二世代に渡りシエルと成就させた華厳の恋を人々は慶び、泣き・笑い・寿ぐ…。
岡夫妻が新生児を抱いてシエルの元にやって来た。
「恭喜(おめでとう)☆おふたりさん!」
「わぁ☆来てくれたんだね、ありがとう!
そちらにこそ、おめでとうだよっ!
奥様もう動いて平気なの?
きゃあ☆可愛いっ♪僕にも抱かせて!
‥‥‥美人さんだァ‥ちぃちゃいなぁ‥‥
フフフ‥‥‥名前は?」
「壱・双葉・珊瑚・与志・豪・睦・奈津そして8人目にやっとこさ女の子“八重”よ♪
すっぽーん☆ってカンジ!スッポーン☆☆
スッキリ楽々の安産だったわ♪
もう2・3人産めそうだけど、育てることも考えなきゃネ(笑)
おふたりさんは?これからの家族計画☆」
少々忖度に欠けるが、天真爛漫で豪快な性格の彼女の言葉に他意はない。
何気ない細君の問いに、ふたりは戸惑った。
「ん‥まぁ‥‥欲しくないことは‥ない‥かな‥?…ね‥シエル‥でもその…」
彼女は悪意のない持ち前のおおらかさ故、グイグイと核心を突いてくる。
「欲しい、羨ましいって顔してる。アハハ☆
うちの子達の可愛がりようを見てたらわかるわよ。
シエルさん、子供の扱い上手だし愛情もスゴく注いでくれるもの♪」
「そりゃあ‥フォンを育ててきたし…ベビーシッターくらいならなんとか…
‥‥けど‥本物のママンにはとても‥」
「あのね‥差し出がましいンだけど、
代理母?‥てあるでしょ。
私で良ければ引き受けさせて頂きたいと思ってるの。
勿論うちの人も同じ考えよ☆」
「‥‥え‥?」
「あははは、そりゃ驚きますよね。
不躾ですみません。
‥‥シエルさん、家族っていいですよ。
俺は親を知らないのに親をやれてる…不思議なもんです。
ホント‥毎日笑って‥泣いて‥怒ったりハラハラしたり‥‥すげーテンション☆
子供達が寝静まるまで息つく暇も無いんだけれど、夜はもう寂しくって明日が恋しくて仕方ない‥ハハハ‥
ああ‥今日も善く生きたナァ‥明日は何があるんだろう‥‥。
俺は兄貴に拾って貰わなかったら、こんな幸せを知らずにどこかで寂しく野垂死んでた。
ヘヘ‥自分のかみさんがこんな大胆なこと言い出すなんて、
正直俺もパニクったんですが‥‥
‥‥兄貴は生前俺に、シエルさんの子供が欲しいって溢してました‥‥
フォンから兄貴の血筋を残すのもいい!
もし‥兄貴への恩返しになるなら、これ以上に誇らしいことないですから。
うちのかみさん…健康体だってことは自慢なんですが、受胎・出産となると流石に年齢的にも最後のチャンスになると思います。
おふたりに、もしその気があるなら‥‥‥
…考えてみませんか…」
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