第1章 兄弟

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僕たちに、父は居ない。 母も居たのかもしれないが今は居ない。 僕たちには師匠と呼んでいた人物が居た。 黒い長髪を後ろで束ねていて、漆黒の瞳に僕たちを映す。 その人は僕たちに雨と風の凌ぎ方を教えてくれた。 食事へのありつき方を教えてくれた。 やさしさもしたたかさも教えてくれた。 放浪者として貧しく簡易テントで暮らす生活だったが、苦ではない。 肉親からもらえずにいた人の肌のぬくもりを教えてくれた。 十分だった。僕が居て兄さんが居て、師匠が居るのだから。 そう、 ある日唐突に僕たちの前から姿を消すまでは。 風の強い日のことだ。季節は、たしか、秋。 朝起きたら既に僕たちの隣は抜け殻で途方に暮れた。 だって、僕は8つだったし、兄さんだって9歳。 これから先どう生きたらいいのかも分からなかったし、 何度も言うようだけど、僕は8才だったのだから。
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