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僕たちに、父は居ない。
母も居たのかもしれないが今は居ない。
僕たちには師匠と呼んでいた人物が居た。
黒い長髪を後ろで束ねていて、漆黒の瞳に僕たちを映す。
その人は僕たちに雨と風の凌ぎ方を教えてくれた。
食事へのありつき方を教えてくれた。
やさしさもしたたかさも教えてくれた。
放浪者として貧しく簡易テントで暮らす生活だったが、苦ではない。
肉親からもらえずにいた人の肌のぬくもりを教えてくれた。
十分だった。僕が居て兄さんが居て、師匠が居るのだから。
そう、
ある日唐突に僕たちの前から姿を消すまでは。
風の強い日のことだ。季節は、たしか、秋。
朝起きたら既に僕たちの隣は抜け殻で途方に暮れた。
だって、僕は8つだったし、兄さんだって9歳。
これから先どう生きたらいいのかも分からなかったし、
何度も言うようだけど、僕は8才だったのだから。
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