第1章 防具の臭さに目覚めた日

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もう少し正確に言うと、真夏も真冬もモノトーンでファッション性のない道着に身を包み、汗まみれになり、大声を出して必死に稽古している自分が好きなのだ。 そして、稽古が終わった後の全身から発せられる汗臭さ、防具の強烈な臭い・・・ 初めて汗臭さに魅力を感じたのは、剣道を始めた中1の頃だったと思う。 中1女子と言えば、おしゃれや恋愛に興味を持つ頃だし、身なりや髪型、服だってそれなりに気を遣う年頃である。 もちろん周りの人に汗臭いなんて思われたらば、もう二度とその人と会いたくないくらい恥ずかしい事である。 でも剣道は違う。 年頃の中学生だろうと、可憐な女子高生だろうと、いったん防具に身を包み稽古を始めれば嫌でも汗臭くなる。 制汗剤や防臭剤を使っても、たいした効果を得ることは出来ない。 一生懸命、厳しい稽古を長時間続ければ続けるほど、想像できないくらいの汗臭さを放ち、稽古後は部員全員が汗の臭いに包まれている。 私が中1の頃、密かに憧れていた1学年上の女子の先輩がいた。 背がすらっとして、小柄で細身だけど剣道はとても強く、自分に対しても後輩に対しても厳しく、激しい稽古をモットーとしている先輩だった。 中1夏のある晩、部活の鍵当番だった私は、部活が終わり道場の鍵を閉めて私一人になったのを確認して、先輩の防具の臭いを嗅いでみた。 先輩の面や小手から激しい稽古の名残りとも言える強烈な汗の臭いが漂ってきた。 これが、あの綺麗な先輩の汗の臭いなのか・・・。 それから先輩が引退するまで、私は鍵当番を積極的に引き受け、一人になった後で先輩の防具や道着の臭いを嗅ぐのが日課になった。 私は女子が好きなわけではない・・・と思う。ただ剣道に関しては例外なのだ。 自分自身が汗臭くなるのも興奮するが、憧れの先輩がこんなに汗臭くなっているのかという事にも興奮を覚えるのだ。 自分自身でもその辺りの心理は上手く表現できないが、一種のフェチなのだろう。
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