第2章 夏合宿の強化指定部員、決定

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加奈を一人前の女子剣道選手として育てたい。 技術面のみでなく、自分に甘い彼女の脆い精神面も徹底的に立て直したい。 勿論、防具も道着も目一杯臭くなって貰おう。 部員に伝えてはいないが、この合宿の強化指定選手は加奈に決まりだ。 そして、部員全員に剣道の汗臭さの魅力を知って欲しい。 もっと臭くなりたい、もっと厳しい稽古を受けたい、もっと激しく怒られたい・・・そんな意識を生徒に植え付けたい。 決めた。私はこの合宿で心を鬼にしよう。 私も生徒も思い切って汗臭くなり、厳しい稽古に明け暮れて剣道漬けの毎日を送ろう。 今年の夏合宿で、この女子剣道部を「日本で一番汗臭い女子剣道部」にする。 そのためにはどのような合宿にすれば良いか、私は学生時代の剣道部OBのツテを使い関東地方北部のある民宿を紹介して貰った。 民宿以外に周囲にあるのは山と田畑と農家のみ。 練習は過疎化で数年前に廃校になった中学校の剣道場を使えば良い。 民宿にはクーラーやテレビがない。扇風機が数台あるだけ。 合宿中は生徒たちの携帯電話は私が預かり、緊急時以外は夜間の練習が終わった後の僅かな休憩時間のみ使用可とする。 この合宿に持ち込んで良いものは剣道の防具一式と着替え、寝巻、タオル、風呂用具、電車代・バス代の現金くらいである。 剣道関係の雑誌や本以外は持ち込み禁止だ。 夏休みの宿題を持ち込んでも構わないが、合宿中に取り組む余裕はないだろうと私は見ている。 この10日間は色気より食い気だ。 化粧品はもちろん、制汗剤や消臭剤など人工的な物は一切持ち込み禁止。 民宿の風呂場備え付けのシャンプーと石鹸で十分だ。 日本で一番汗臭い女子剣道部にデオドラントやファブリーズは要らない。 汗をかいたらタオルで拭けば良いだけなのだ。 その代わり、食事は男子並みの大盛にして貰おう。勿論、出された物を残すのは厳禁。 どんどん食べて、太るのが嫌ならばそのぶん思い切り稽古して、汗を流せば良いのだ。 ここなら剣道以外の事を考える余裕はない。よしここにしよう。
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