第3章 夏合宿1日目

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加奈の心に、ほんの僅かだが、合宿に対する覚悟が芽生えたのではないか? そう考えた私は加奈に「どんな剣道をして、どんな選手になりたいの?」と聞いた。 「えっ・・・それは・・・・」と言葉に詰まる加奈。 ダメだ、覚悟なんて出来ていない。 「やっぱり、剣道の事なんて考えていないじゃない!そんなに遊びたいのなら、みんなの迷惑だから、今すぐ出て行きなさい!」 「帰りたく・・・ない・・です。剣道が強く・・強く・・なり・・た・・い・・・・」 言い終える前に大粒の涙が頬を伝い、言葉にならない。 止め処なく流れる涙、顧問からの厳しい言葉の数々、自分自身への情けなさ・・・ 恐らく、これまで文化系のおっとりとした環境の中で育ってきた彼女にとって、生まれて初めて受ける屈辱だろう。 加奈のこれまでの生き方やプライドは夏合宿冒頭の数分でボロボロになったはずだ。 私は彼女をこの10日間で日本一汗臭い女子剣道部の一員にして、徹底的に鍛えたい。 典型的な文化系の彼女を、汗まみれの体育会系女子剣士に変え、剣道一筋の高校時代を送らせたい。 そして、まだまだ新品の彼女の防具や道着を、これでもかと言うほど汗臭くしたい。 そのために、彼女を更に精神的に追い詰めてみよう。 剣道以外の事を考えられない10日間だと覚悟させたい。
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