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「犯人はやっぱりあなただったんですね」
夜の帳が下りた、埠頭。車両が照らす、複数の人。
その中に、見知った顔を見た。予感はしていた。だけど、その事実を受け止められない。
目を背けたくなる現状。見て見ぬふりができればどれほど良かったか。
そんな器用にも、不器用にもなれない自分が恨めしい。
「動くなっ!」
部下が銃を向ける。その人も、その人の取り引き相手たちも、憎々しげに顔を歪める。
車両が照らす人数は六人。その人を除く五人が、取り引き相手。つまり、麻薬の売買人。
一見して、堅気ではないと分かる雰囲気、顔。
「それをゆっくりと置けっ!」
それとは、そいつらが手にしてるアタッシュケース。二つ。中身は見なくても分かる。麻薬。
そして、その人の手にも、アタッシュケースはある。売買するのに必要な、相応の現金だろう。
私の部下の指示に、三人は渋々従った。黒いアタッシュケースが、重い音を立てて、光の中で存在を強くする。
「それから離れろ」
「おいおい、勘弁してくれよまったく」
銃を向けられ、指示に従いながらも、一人がぼやく。
「台無しじゃねぇか。何が安全なんだよ」
「喋るな!」
愚痴を吐くスキンヘッドの男が、ぐるりと周りを見回す。彼らを囲むように配置し、包囲している車両と人数を。
車両は八台、人数は二十人弱。
私の独断で、彼らには出動してもらっている。それは、仕方のないことなのだ。
目に映る光景をもって、それを痛感する。私には、部下しか頼る相手がいない。
街に出回っている、膨大な量の麻薬。使用しているのは、十代から六十代までと、幅が広い。
その中で特に厄介なのは、若者による使用だ。後先考えない無謀さが、手軽に手に入る気軽さが、彼、彼女らを中毒者へと陥らせている。
そして、麻痺した脳で思考が鈍り、取り返しのつかない事態へと発展する。
暴行、強姦、危険運転、殺人。
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