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「あーあ」
スキンヘッドの男を見下ろし、署長が冷淡に発する。
「やっちゃったね。白井君、部下の教育はしっかりしてなきゃ」
「……」
どの口が部下だと──。その言葉をぐっと飲み干し、小林を見る。彼の目は、据わっていた。
怯んでも、後悔してるでもなく、ただじっと、スキンヘッドの男に群がる男達を直視していた。
「こ、小林」
「彼が銃を取り出そうとしたため、発砲しました」
「銃?」
機械音声のような、感情のない淡々とした言葉に反応したのは、署長だ。
「そんなもの、彼らは持ってないよ。取り引きの場には邪魔だからね」
いや、取り引きの場だからこそ、だ。麻薬と大金が動く。そんな場に、警戒心を抱かない方がおかしい。
けれど、それが無くなれば。署長の言葉をどれだけ信用できるのか定かじゃないが、仮に事実だとすると、その年月の積み重ねを感じる。
彼らはいったい、いつから取り引きを?
「彼は、喘息持ちなんだよ。緊張すると息が苦しくなる。だからいつも薬を持ち歩いてる」
ほら、とスキンヘッドの男の懐から、血にまみれた吸入器を取り出した。
「何故、そんな奴をこんな場に?」
「普段は到って普通だからね。もう三年の付き合いなんだ、よく知ってるよ」
三年。長く、許しがたい年月だ。
「銃なんか持ってないのに、撃っちゃって」
「身の危険を感じた、と言い直します」
「こ、小林!」
彼は危険だ。人を一人殺してしまったというのに、あまりにも平然とし過ぎている。歪んだ正義を抱えている。それは、裏を返せば『悪』だ。
「銃を下ろせ!」
「何故ですか」
「いいから下ろせ!命令だ」
口答えしながらも、彼は銃口を地面に向けた。手は渋々、顔は嫌々だったが、この際そんなのには構っていられない。
事を早く進まし終わらせようと、私は小林以外の数名の部下に指示を出し、銃を下ろさせる。
代わりに手錠を出させる。四人の部下と共に、光の輪の中へと歩み寄る。
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