拝啓

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「セッちゃんってばー!」  おっと、そういえば今日はクリーニングに出していたスーツを取りに行かねばならないんだった。あの忌々しい女が、歓迎会で見事に酒を引っかけてくれたのでな。  幸い、一張羅ではなかったので良かったのだが……。もしそうだったら、今頃あの女の葬儀が粛々と行われていただろう。  気は進まないが彼女の話をするとしよう。名前はレモン。以上。 「聞こえてないの? 無視してるの?」 「喧しい。ようやく煩わしい朝礼が終わったのだ。一服ぐらいさせろ」  ここは、喫煙所だ。  誤解しないでいただきたい。私はその辺にいるような中毒者ではない。葉巻を純粋に楽しむのもまた、紳士の嗜みの一つだと言えば、理解できるであろう?  朝礼と言っても、毎日毎日営業だの収益だのと、ここを仕切っているドヤ顔の部の長が優越感を満たす自己満足の場でしかない。ついでに、新人であるレモンの状況について個人的に訊かれたが、カスだと言っておいた。 「髪にも臭い付いちゃうから、早く吸ってよね」  まるで中毒者に言うような口振りではないか。嗜みだと言っているだろう。急ぐようなものではないのだ。レモンは、名前のような黄色い髪を後ろで一つに束ねているが、その似合わないポニーテールも、何度引き抜いてやろうと思ったか分からない。
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