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包埋室へ行くと、既に作業中の先輩社員がいた。
一つ先輩の廣瀬さんと言う男性社員と、苅部さんと言う女性社員だ。
邪魔にならないように、4人並んで立てる程の流し台に、
「失礼します」
と言って、昨日指示されたバケツを運ぶと、
流しにいた廣瀬さんが、
「どうぞどうぞ」
と言って、にっこり笑って、大袈裟に場所を空けてくれた。
包埋機にセットする為の籠の場所も、籠への詰め方も、研修で習ったし、実習したところだから、そこまでは分かっている。
私に、わからないのは、機械の操作。
だから、山崎の指示された通りに、切り出した臓器が小分けに入っているプラスチックの四角いケースを、籠に並べる為に、
ステンレス製の籠を棚から取ろうとして、手を伸ばしたけれど、たくさん並んでいて、ここから持ち出すのに、使う順番とかあるのかなって眺めていたら、
「はい、どうぞ」
と言って、廣瀬さんがニッコリ笑って籠を手渡してくれた。
挨拶程度しか、話したことがなかった先輩だから、親切な人だなって初めて知って、
「ありがとうございます。ここから持ち出すのは、どれでも大丈夫ですか?」
と聞くと、
「うん、どれでもいいですよ」
とニッコリ笑って教えてくれた。
「ありがとうございます」
御礼を言うと、後ろで作業している苅部さんが、
「フフフ…」
って笑ったから、振り返ると、
「ごめん、可愛くて」
そう言ってまた笑った。
何か変だったかなって一瞬戸惑ったけど、二人の優しい空気に包まれて、少しだけ癒されると、
ドアがガチャ、バタンとなって、いつもの足跡が聞こえたから、また緊張して背筋が伸びた。
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