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「大丈夫」と言われても、緊張で、戸惑い手が震える。
「一度、お手本を見せていただけませんか?」
なかなか始められずにいると、どんどん切片が水槽に浮かべられていくから、焦って、山崎にお願いすると、
「うん。」
と小さく咳払いのように答えて、薄切していた手を止めた。
こちら側に椅子ごと体を傾けて、一瞬、目が合うと、
「んな、緊張しなくても…。」
ふっと息を吹いて笑いながら言い、掌を上に向けた。
「はい、ちょーだい。」
私が、最初の一個目を始めようかと躊躇っている間に、ずっと握っていたプレパラートを渡してと言っているのだと気づいて、そっと山崎の掌に置く。
山崎の器用な手で、無駄のない動きで、簡単に数枚のお手本を見せてくれた。
プレパラートを持つ角度とか、すくい方とか、細かいテクニックを目で見て覚える為、山崎の手の動きを凝視する。
「こんな感じで。続き、お願いします。」
一連の動作を数枚やり終え、こちらを見て、一度手に持ったプレパラートを手渡された。
それを、受け取り、笑顔で答える。
「はい。ありがとうございます。お願いします。」
“お願いします”
なんて、初めて言われて、ちょっとした衝撃を覚えると同時に、初めて山崎の役に立つ為の仕事を貰えたんじゃないかって思ってしまう。
嬉しくて、同じように、“お願いします”と返していた。
横について、見たままに真似をして、慎重にマウントして、それを、乾かす為の台の上に置く。
緊張で、手がカチコチだけど、一枚やり終えて、息を止めていたことに気づいて、フーッと深呼吸して、またプレパラートを持つと、
山崎が切り終えた切片を、割り箸でそっと水槽に浮かべるところだったので、
邪魔にならないように、手を引っ込めてよけた。
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