4/10
前へ
/23ページ
次へ
「お先に失礼します」 「お疲れ様です」 まだ残っていた社員たち数名と、山崎に挨拶をして、病理棟の外へ出ると雨が降っていた。 更衣室のある本館の研究棟までは、屋根のある通路を抜けて行ける。 更衣室へ着くと、白衣と作業ズボンを脱いで、私服に着替え、ロッカーを見ても、置き傘なんて用意していなかった。 仕方がない、歩いても10分だから、走って帰ろう。 ロッカーには、替えの白衣を入れていたビニール袋しかなかったけれど、これは使える、そう思って、 バックごと入らなかったから、ビニール袋に、濡れたら困るスマホと財布を移し替え、ロッカーにバックは置いて帰ることにした。 あと、最低限、バックの中身で何を持って帰ろうか、そんな事を考えて移し替えていたから、帰り支度に少し時間がかかってしまい、下駄箱に着くと山崎に追い抜かれていた。 着替え終わった山崎が、ちょうど靴箱から靴を出している背中を見つけて、その背中にドキッとしながら、自分の靴箱へ室内履きをしまって靴を出すと、こちらを見た山崎。 「…帰ったんじゃなかったのか?」 「…っ、…お疲れ様です」 「おつかれ」 山崎が先に靴を履き終えて、玄関トビラを開けると、外の雨音が、激しく聞こえてきた。 ドアを開けたまま、こちらを振り返って、 「中川、傘もってんの?」 そう聞いた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加