7/10
前へ
/23ページ
次へ
無表情で車を運転する山崎をチラ見する。 自分の気持ちに気づいてから、その存在自体がカッコ良く思えてくるのは不思議だ。 作業室とはまた違う、密室に改めて緊張してきて、 窓の外を見ていたら、道案内することもなく5分ほどで自宅アパートの前に着いた。 山崎と北島さんと飲んだ日に、送ってくれたのは1度きりなのに、覚えていてくれたことが嬉しくなる。 夜道で酔っていたのに、駅前ということもあり覚えやすい場所とはいえ、山崎の脳の中に、私の家の地図があると思うと、それだけの事で口もとが緩みそうになった。 シートベルトを外して、お礼を言うとしたのに、山崎の顔を見たら、やっぱり無表情で、 「すみません…」 この空間に喜んでいるのが自分だけなことに気づいて、ガッカリして謝ってしまった。 「……、ありがとうでしょ」 そう言いたかったのに、顔を見たら咄嗟に出てくるのは謝罪の言葉になってしまう。 「…ありがとうございます」 「どういたしまして」 棒読みで返された。 車から降りたくない、もう少しだけ、側にいたい。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加