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彼の声に安堵した瞬間、
決して素直ではない私も
思い知らされていた。
とにかく私には
この人が必要なんだと。
昨日や明日のことは
わからない。
けれどとりあえず今日、
必要なんだと。
「……桃也!」
乾先生のかすれた声に、
寒気がした。
「先輩、
彼女を苦しめることは
やめて欲しいと、
お願いしたはずですが」
「……!」
あきれ返った桃さまの声に、
思わず顔を上げる。
そうだ、
彼は乾先生の後輩だ。
忘れていたわけではないけれど、
どうしてそのことを
鑑みることが
できなかったのだろう。
私の手の中で
赤く濡れたナイフが、
かたかたと震えていた。
「あとから出てきたお前に、
僕と彼女をどうにか
できるわけがないだろう。
引っ込んでいてくれないか」
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