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乾先生の手から、
ぽとぽとと血が
したたり落ちる。
彼の腹を刺すつもりで、
私はどうやら手しか
切れなかったらしい。
「相変わらず
めちゃくちゃなことを
おっしゃる方ですね。
面倒で死にそうです」
「じゃあ
死んでくれてかまわないよ」
「もっと面倒ですよ。
過去の男こそ、
引っ込んでいてください」
なにもかもわかったような
桃さまの声に意識を撫でられ、
いつのまにか
乱れていた呼吸が整っていく。
反比例して勢いを増す
自分の涙に、
私はしゃくり上げた。
「杏さん……
だいじょうぶ、おちついて。
おちついて。
僕も、この人のことは
ちゃんとわかっているから」
「と、とう、
桃也……さん……」
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