八当的反撃

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(やったか……!?) 赤狸が放った爆風により、辺りに砂塵が舞う。狭まった視界で敵の姿を確認しようと目を凝らしていると、砂塵の奥に一瞬、何か光るものが見えた。 反射的に身を逸らすと、刹那。鋭い切っ先が顔をかすめ、白い頬に赤い筋が入る。 動かなければおそらく、目をやられていた。 後方に下がり距離を取るが、じわりと滲む冷や汗を拭う間はない。だんだんと晴れてきた視界の正面には、赤狸に刃を向ける三つ目の女鬼がいた。 これまで何度か顔を合わせたこともある、つぐみという女鬼。普段はその能力を活かし偵察を主な仕事とし、自由奔放な上司に悩まされている――どちらかといえば落ち着いた部類の、鬼らしくない鬼だと思っていた。 しかし今、三叉槍を構えたつぐみの気迫は、まぎれもない『鬼』そのものだった。 「……なぁにが『わざとじゃないんだじょ~』やて? 思いっきり攻撃しよってからに」 怒っている。ものすごく怒っている。 当然といえば当然だ。半ば脊髄反射のようなものだったとはいえ、赤狸のほうから攻撃をしかけ、「わざとじゃない」等と宣った挙句、大人しくしてもらうため、という名目で大技まで放ったのだから。 つぐみの額からは血が流れていて、肌や服にも傷や汚れが多くある。大人しくするどころか、火に油を注いでしまったような結果だった。 「ほんならお望み通り、手加減なしでいったるわ!」 つぐみはそう吼えると、地面を蹴り出し一気に赤狸との距離を詰めた。 再び顔をめがけて放たれた風を切るような素早い突きが、赤狸の頭上を掠めていく。これを避けられるのはつぐみの想定内だった。つぐみはすぐさま槍を回し、次撃は足元を狙い長槍を回したが、赤狸は後方に飛びのきそれを避けた。
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