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つぐみの言った通り、このぐらいの傷であればすぐに治る。しかし服の汚れや傷で、誰かと交戦したことはすぐにバレてしまうだろう。
戦闘は避けろと兄に言われていたが、果たしてどうごまかそうか――。そんなことをぼんやり考えていると、すぐそばの茂みがガサリと揺れ、先程去っていったつぐみがひょこりと顔を出した。
「言い忘れとったけど、兄狸と狐野郎にはちゃんと正直に報告しとくんやで。変に誤解されてウチが奴らの怒り買うのは御免やからな」
それだけ言うとつぐみはまたすぐに走って行った。赤狸の口から、ちぃっ、という大きな舌打ちが漏れる。
緊張が緩むと、様々な感情が一気に浮かんでくる。
悔しい、情けない、腹が立つ。
それでいて少し安心していて、それでも不満が爆発しそうで。
「っあ”ーーーーーーーー!!!!!!」
全てがごちゃ混ぜになったもやもやを吹き飛ばすように大声を出して、赤狸は立ち上がる。
うじうじなどしていられないのだ。
本来の目的を思い出せ。
喜一郎はまだ、取り戻せてはいない。
敵だっておそらく、まだたくさんいる。
それに、嫌な予感がするのだ。
今回の本当の敵は、鬼たちではない。
ならばその『本当の敵』とやらに、このたまった鬱憤を晴らすような一撃を食らわせてやろう――。
言い訳を考えるなどらしくもない。
しくじったのなら、取り戻すまで。
気を引き締め、新たな一歩を踏み出す。
戦いがはじまるのは、これからだ。
-了-
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