わたしたちみたいだね 海

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 和宏は、中学を卒業して働きだした。  5ヶ月ほど、前のことだ。  高校には、いかなかった。 「和宏。こっちだ」  現場監督が、怒鳴るように、さけぶ。 「はい」  和宏は、一輪車を押してはしった。  まだ、何の免許もない。  技術、経験もない。  和宏ができることは、土を運ぶことだけだ。  熱気。汗。舞いちる土。  和宏は、ただ、黙々と土をはこんだ。  日が傾くまで、土をはこびつづけた。 「よっしゃ。今日はあがりだ」  現場監督の大声がとんだ。 「今日も暑かったな」 「帰りは、ビール、いくか」  作業員たちの、声が聞こえる。  和宏は、タオルで汗をぬぐった。 「和宏。おまえもいくか」  現場監督が、和宏に声をかけた。 「いえ。母さんが、待ってますから」  和宏が、うつむきながら、答えた。 「あっ。そうだったな」 「いえ。大丈夫です」  和宏の母親は、去年、病気になった。  和宏が小さいころに、父親も死んでいない。  貧しいが、なんとか生きてきた。 「学校だけは、ちゃんと出したげるから」  和宏の母親は、そう言って、いつも、深夜まで働いていた。  無理をしたのかもしれない。  何回も、手術をした。  入院費、手術代、薬代。  つぎつぎと、お金が消えた。  病気で苦しむ母親に、我慢させられなかった。  病室でテレビをみせた。冷たいお茶も飲ませた。  つぎつぎと、お金が消えていった。  ようやく、退院したときには、貯金はなくなっていた。  高校受験をひかえた和宏は、母親にいった。 「母さん。オレ。働くよ」  和宏の母親は、なにも、言わなかった。  それが、現実だった。  夕日に照らされて、工事現場の作業員が帰っていく。  和宏は、だまってそれを見送った。  人気がなくなってから、和宏は歩きだした。  だれにも、声をかけず。  だれからも、声をかけられずに。
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