第1章

2/12
前へ
/12ページ
次へ
大抵の学校には、何に使うのかわからない謎のスペースがある気がする。廊下の壁の一部に人がひとり立てるくらいのくぼみがあったり、用途不明な準備室があったり。 私たちの中学にもある。校舎は3階までが、各クラスの教室と職員や事務関係の部屋が入っていて、特別教室や空き教室ばかりの4階から屋上に続く階段を上ると、小さな踊り場に出る。そこには、正面に屋上への扉、そして左側に、もうひとつあるのだ。他の階では壁になっているはずの場所に、アルミっぽい錆びた銀色の、教室の扉とは形の違う引戸が。鍵はかけてあるものの壊れていて、穴の開いた部分に指をつっこんで外すことができる。だから、私たちはいつもそこで2人で遊ぶ。普通なら不良がタバコでも吸いにきそうな場所だけれど、少子化で学年に2~3クラスという状況になったうちの中学は、全体数の少なさと活気のなさのせいで、不良もいない。 中は埃っぽくてがらんとした、コンクリートうちっぱなしの小さな部屋で、なぜか屋上に面する壁際に、手洗い場だけ、校内の他のものと同じやつが据えつけられている。手洗い場の反対の壁には掃除ロッカーがひとつと、老朽化したマットのようなものが積み重なっている。 ブキミがロッカーから、その紙を取りだして、コンクリの床にうやうやしく広げた。私はしょうがないのでブキミが座った場所の、紙を挟んで正面に、いわゆるヤンキー座りで腰を下ろす。 「もう。亜季ちゃん、そんな座り方じゃ来てくれないよ。姿勢を正すのよ」  ブキミが文句を言ったけれど、私が「いいじゃん、おしり汚れるもん」と言ったらため息をつき、 「じゃあ、始めるからね」  そう言って十円玉を、「はい」と「いいえ」の間の鳥居の絵の位置に、またこれもうやうやしく置いた。ブキミが人差し指を置くのに、私も従う。いつも付き合わされる、馬鹿馬鹿しい儀式だ。  どこで調べてきたのか知らないが、ブキミが言うには、これには正式なやり方があって、そのやり方に従わないと降りてきてくれないそうだ。「呪われるんじゃないの」と私が聞くと、「神様はそんなことはしない。呪われるのは他の低級霊を呼び寄せてしまったせい」とか言う。だから、その情報源はどこなんだと聞きたい。 「狐狗裡さま、狐狗裡さま、降りてきて下さい」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加