俺の事情

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翌日。 昨日よりも幾分すっきりとした頭で出社した俺の後ろを、刷り込みされた雛のように中島が付いてきて、 「で、10時からの青空銀行さんが……」 ざっと1日のスケジュールを読み上げる。 俺について1年になる中島。 仕事も言葉遣いもまだまだ半人前の秘書のくせに、今だに成長期なのか背ばっかり伸びやがる。 「……明日にして欲しいということでして。現在リスケ中ですが、どうにか明日に入れ込めそうです」 参ったな。こっちの予定が狂う。 年度末でばたつくのも、不測の事態が起こってしまうのも、誰が悪い訳ではないのはわかっているが、 「わかった。じゃあ今日は昼まで空いたってこと?」 当日になっての変更に若干イラつきながら自分のデスクに腰を下ろした。 以前からの悪い癖が、ここ最近になって如実に現れていることに自分でも気づいていた。 目の前に立つ爽やかノッポは、俺についてまだ間もない頃だったらオドオドしていたであろうに、 今は学生時代から使ってると言っていたボロボロのバイブルサイズのスケジュール帳を片手に、ちょっとだけドヤ顔になった。 「いえ、実は午後のアンダンテの目黒さんから、少し早く来ていいかと連絡頂いてまして」 「目黒さん?」 イライラしてささくれ始めた心がその名前に優しく撫でられた気がした。
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