俺の事情

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「目黒さんがいらっしゃいました」 迎えに来た中島を視界に捉え立ち上がる。 部屋を出て左へと足を進めようと体の向きを変えると、 「あ、常務。応接室ではなくて、会議室でお待ちです」 後ろから中島に声をかけられた。 「会議室?」 「はい」 どうして、と顔で聞いてるのに、中島はクスッと笑い、 「行けばわかります」 澄ました顔で答えて腕を差し出し、促されるまま反対方向へ歩き出した。 ノックをすると中から聞こえてきたのは、 「はいっ!」 予想よりもはるかに威勢のいい返事だった。 「お待たせしました」 そう言いながらドアを開けると、 コの字に並んだ長机いっぱいにファイルが広げられていて、 「今日は急な変更にも関わらずお時間いただきありがとうございますっ!」 その真ん中に、ベージュのパンツスーツ姿で勢い良く頭を下げる彼女がいた。 「いやいや。頭上げてください」 「ありがとうございますっ」 そう言って勢い良く頭を上げると、一つに結んだ艶のある髪が柔らかい笑顔と一緒に揺れた。
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