俺の事情

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「早速ですが、八神常務。持って来た資料を…」 「えっ?持って来た、って、これ全部?」 A4の分厚いファイルはざっと見ても10冊はある。 「はい。なので、中島さんに会議室の方がいいと仰っていただき、ここに並べさせてもらって…」 「いやいや。俺が言いたいのはファイルの多さ云々じゃなくて」 「えっ?」 「今日のためにこれだけの資料を集めてくれたの?ってこと」 「はい。参考に出来るような資料を探している、とのことでしたから」 それが何か?と言わんばかりの表情。 効果音を付けるとするならまさに「キョトン」。 会議室を見渡すと、部屋の端っこには、二泊三日も余裕のキャリーバッグ。 机の上には使い慣れたような色鉛筆。 「ぶっ」 思わず吹き出してしまった俺に、彼女はますます不思議な物を見るような顔になる。 「申し訳ありません。私、何かお気に触るようなこと…」 「ごっ、ごめん。違うんだ」 デジタルな今の時代。 ポータブルな端末で、手軽に簡単に何でも出来る時代に。 彼女の戦闘スタイルはアナログなのか。 いいねぇ。 俺だって、スケジュール管理は未だに手帳派だ。 彼女と、 彼女が勤めるアンダンテの仕事に対する姿勢が垣間見れたようで、 「で?何から見せてくれるんですか?」 「はいっ。まずはこれを…」 着ていたジャケットを脱ぎ、今日もつけてきたピンクのネクタイを緩めた。
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