俺の事情

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机の一番手前に置いていたファイルを取り上げて、 「以前にもご覧いただいてるかと思いますが、これらは弊社の実績例で………」 力強い声で話し出すのは、初めて会った時の、あの怯えたような彼女と同一人物だろうか。 背筋を伸ばし、凛とした横顔。 流暢に溢れ出る言葉の端々に見える自信。 圧倒された俺は、コの字の机の中央にキャスター付きの椅子をコロコロと引きずってきて、 「あぁ、ホームページのとは若干の違いがあるんですね」 「そうなんです!実は……」 彼女の声に、姿勢に、生き生きと話すその豊かな表情に引き込まれていった。 「で、こっちが外観で………」 ファイルを捲り、彼女の説明に耳を傾ける。 「あ、でもこっちの方が御社の……」 「あのー、目黒さん?」 「はい?」 「実は、外観も、もちろんなんですけどね、その…」 内装はおろか、実質的にまだ何も決まっていないことを告げると、一瞬驚いたように目を開いたあと、 「そ、それじゃ……」 さっきまでの押しの強さが消え、頬が少し強ばって赤く染まっていく。
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