俺の事情

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あー、マズった、と思った。 こっちが丸投げ状態では、仕事になんないよな。 ましてや彼女は鈴井社長の話じゃ新人さんだ。 今日は先日とは別人のようにせっかくヤル気に満ちてるというのに、それをポッキリ折っちゃったようなもんだ。 うつ向いて肩で大きく呼吸する彼女の下げた手のひらは、グッと強く固められていく。 「いや、あのですね……」 どう取り繕うか。 今日それをある程度まとめようかなと思って、と言おうとした俺に、 スッと顔を上げた彼女が言った。 「じゃあ、好きなようにやっていいってことですか!」 「え?」 「あ、もちろん御社のイメージやご予算はご提示いただきますけど!でも、こうしたいなっていうのが実はあって。お店行くたびに勝手に色々想像してて…。わぁ、どうしよう!待ってくださいね、えぇとー、あ、このファイルだ!八神さんっ、これ見てください!ザッとデザイン落としたものなので、きちんとまとまってないんですけど…」 『あ、やべ。』 今、俺の頭に浮かんだ言葉がそれだった。 「今のお店の雰囲気を壊さずに、でも色合いとかは……あぁ、こっちの方がいいかな……」 「あぁ………うん………」 「でもこれだとちょっと色味が寂しいんですよね、私はポップなものよりこういう古びたインテリアは好きなんですけど……」 「そう、ですか……」 今、 俺、 たぶん、 持っていかれた。
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