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「お手数お掛けして申し訳ございません。ですが、これを………」
頭を下げてから彼女が次に手にしたのは、
「これ………って」
「それほど多くはないのですが」
それは、曜日と時間別の客層の集計で、彼女の言うようにおおまかなものではあるけど、年齢と性別にも分けられていて、
うちのブレーンでも知り得ないような、女性の服装や、会話から漏れ聞こえた推測の職業までもが記入されていた。
「先程も申し上げましたが……スタッフさんが私の顔を覚えてるんじゃないかってくらい通っちゃって」
「いつから……?」
「先月、鈴井とこちらに伺った後からずっと」
「ここまでする……」
「必要は無いかもしれません。ですが、担当すると決まった以上、手は抜けません。ご依頼主様の希望通りに進めるのも仕事のやり方かとも思います。ですが、単純に、私自身がどんなお店だったのか、どんなお店へと変わっていくのか、見ておきたかった、それだけです」
「にしても……」
「今、暇なヤツって思いました?」
「えっ、あ、いや」
ファイルから目を離して上げた視線の先には俺を見てクスっと笑い、
「そういう性分なんです」
照れくさそうに前髪を指で弄る彼女がいて、
俺は、綻ぶ口元を隠すように鼻の頭をポリポリと掻いた。
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