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カフェラテの泡が消えかけた頃、
ペラペラとファイルを捲っていた俺に彼女が尋ねた。
「常務が行った今までで印象深いお店はありますか?」
「あり、ます。たぶん、これが近いかなー」
「これ、ですか」
大学時代、冬休みを利用して訪れたニューヨークのカフェ。
雑踏を避けて一本奥へと入り込んだ路にあった、時間の流れがやけにゆっくりと感じた店だった。
「美味しい、安い、寛げる……色々な理由があると思うんですけど、何よりもカフェを思い出そうとした時に一番に頭に浮ぶような、そんな印象を持たせるのも大事だと思うんです。お店の佇まい、インテリアや接客も含めですが」
確かにそうだ。
「そんなお店にしませんかと言ったら、図々しくて生意気でしょうか」
「いいえ。心に刺さりましたよ」
彼女の感性、仕事への根性、真っ直ぐな姿勢、
どれをとっても任せてみようと思えた俺は、
彼女には、好きなようにデザインしてもいい、と伝えた。
目をキラキラさせて張り切る姿に好意を持っていないと言うと嘘になる。
ただ、そこは仕事相手だ。
きちんと線を引いて置かないと後々困る。
それに、いくら持っていかれたとしても、仕事が絡む恋の相手はもうコリゴリだ。
締め切りを一週間後の火曜日に設定し、
俺は改革推進派の提示してきた予算額とすり合わせに取り掛かった。
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