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「……で、類似した素材を使用した場合、たぶんこのくらいの金額になるかと」
「うーん……どっか削れるところないかな」
「だとしたら、照明器具は高くつきますし、今からだと配線も難しいでしょうから、サロンは主にインテリア雑貨を中心にカフェのインテリアに近づければいいんじゃないかと……」
このくらいのリニューアルなら改革推進派も首を縦に振ってくれる違いない。
彼女が今日持って来てくれたカフェのラフ画と見積りをひとまず引き取って、サロンの方についても簡易的なものではなく、きちんとした書面での提示を依頼した。
「……畏まりました。期日は、来週の火曜日でよろしいでしょうか?」
「たぶん大丈夫かと……こっちのスケジュールを一旦確認させてもらえるかな」
「はい。あ、あのっ、ご都合が合わないようでしたらこちらはいつでも……」
いつでも、なんて言ってしまっていいのか?
俺が意地悪く“明日の朝一番に”とでも言ったらどうするんだよ。
まぁ、身内にはたまに言いそうになるんだけどさ……。
そんなことを思いながら自分の手帳から彼女へと視線を向けると、頬に赤みを乗せて俺を見ている彼女とバッチリと目が合った。
そして、視線が合わさったままで、
「今夜とか……どうでしょうか?」
そんなことを言い出した。
「ははっ。冗談が過ぎますって」
「あ、もちろん、その、ラフ画は無理ですから来週ということでお願いしたいのですが……それだと夜桜には遅いですよね」
「夜桜?」
「はい。夜桜見物を兼ねて飲みに行きませんかとお誘いしたら迷惑ですか?」
あくまでも仕事を通じての彼女への好意。
それを、ただ確かめるだけだ。
言わば『接待』だ。
そう思って受けた飲みの誘いだったのに。
『もう要らない』と思っていたものが、
目の前にふわりと降りてきたようで、
始まりの予感がこんなにも楽しい気分だったかと、柄にもなく足取り軽やかに家へと帰った俺。
そんな色々な意味でほろ酔いな俺を待っていたのは、
1通のエアメールだった。
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