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茄子紺とオレンジ色のアルファベットが大きくプリントされた荷物に心当たりも無ければ、書かれている住所にも見覚えは無い。
だが、差出人の名前だけはローマ字表記でもすぐに判別出来た。
それは、何度も繰り返し呼んだ愛しい女性のものだった。
英語が苦手と言っていたのにもう国際郵便も出せるほどになっていたんだと、変なところで関心しながら抵抗なく封を開けたのは、
きっと、夜桜をつまみに飲んだアルコールのせいだ。
『翔へ。
お元気ですか?
八神さん、と書き出そうか迷ったけど、翔で書かせてください…………』
そんな始まりの手紙は、
クセも迷いも無い真っ直ぐなあいつの文字は昔と変わらないのに、
どこか他人行儀に見えた。
厚手の封筒には、手紙の他に表書きもジャケットさえもないディスクが入っていた。
『………和也には内緒で送りました。翔には一番に聴いて欲しくて。』
それは、
アイツの夢が詰まったモノ。
ようやくカタチになったんだな。
少しだけ芽生えるそんな誇らしい気持ちの裏から生まれてくるのは、
それを支えているのがあいつだということの現実だ。
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