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複雑な心境で手紙の2枚目に目を落とした。
『………生活にも慣れましたし、最近は娘を通じて友達も出来ました。英語は相変わらずです。娘の方が達者で困ります。この前なんか……』
娘………。
子供が出来たのか。
ー俺は一緒にサッカーやりたいから男がいい。
ー私は女の子。翔に似た可愛い女の子!
ーお前に似たって可愛いだろうよ。
ーやだよ!こんな一重の目なんて!
ーははっ。
ーてか、何?この会話…まさかコレって例のアレ?
ーいやいや、そんなまさか。強いて言うならば、シミュレーション?伏線?予約?意識調査?
ーぷっ。
ーいいだろ……てか、こんなサラッとなんかやんねーよ!
あぁ。
もう、何もかも、元には戻れないんだ。
わかっていたよ。
わかっていたはずなのに、
『追伸。 要らないようなら処分してくれても構いません。この手紙も。』
そんな文面に初めて胸がキリリと悲鳴を上げた。
玲乃と、玲乃をかっさらっていったアイツを見送ったあの時から、俺の意思とは関係なく時間は確実に進んでいた。
『かっさらっていった?』
そうだろ?
俺らは上手くいってたんだよ。
『そこに邪魔が入ったとでも?』
そうだよ。
お前さえ現れなければ良かったんだ。
『じゃ、も1回返すからやり直してみる?』
出来るならしたいさ。
『オレはイヤだね』
負けるとわかってるからだろ?
『こういうことに勝ち負けなんかないでしょーよ』
自信のないやつが言うセリフだな。
『何とでも言えば?ただオレはね、あいつにまた苦しい決断をさせたくない。それだけだよ』
…………。
脳内に居座るアイツが言いそうな言葉が勝手に湧いてくる。
もう戻っちゃ来ないんだと、
もう進まなくちゃいけないんだと、
わかっていても止める術が無くて。
置いてきぼりを食らったように、
ずっと動けずにいたんだ。
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