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どこにぶつけていいのかわからない感情のまま悪態をついて放り投げてしまったCDを拾い上げ、ディスクをセットしリモコンの三角ボタンを押した。
ピアノ一本で歌うアイツの透き通った声から、
あいつが愛おしくて仕方が無いと伝わってくる想いが、
アイツの声で、
切なくて温かいメロディーに乗って、
耳から全身を駆け抜けた。
その全てが俺の愛した女性へ向けられていると思うと、
頭が、
心が、
どうにかなってしまいそうだ。
「ふざけんな……」
あの日俺は精一杯の笑顔であいつを見送ったはずなのに。
アイツの夢がこうしてカタチになったというのに。
文字からあいつの幸せそうな毎日が伝わってくるというのに。
1ミリも祝福すら出来なくて、
俺はちっとも成長していない。
未練たらしくて小さい男なんだと思い知らされる。
ー八神さんとお酒飲みたいって思ってたんです。勇気出して誘って良かった……また誘ってもいいですか?
ーいいけど……今度は仕事の話は抜きだよ?
ーほんんっとにごめんなさい!つい……
ーははっ。うそうそ。また飲もう?
ーはいっ!是非!
さっきまでそんな彼女の照れた顔に浮き足立ってたというのに。
「くっそ…」
この涙はきっと、
アルコールのせいだ。
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