俺の事情

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気が付くと曲調ががらりと変わった歌が流れ出していた。 停止ボタンを押し音を遮断したタイミングで、上着のポケットに入れていたスマホがブルブルと胸を擽った。 手に取ったそこには『目黒さん』の名前。 酔った勢いと彼女と共有して楽しかった時間が後押しして交換してしまったLINEに、踊るような文字が浮かぶ。 《美味しいお店でした。ありがとうございます。ご馳走さまでした。おやすみなさい。ラフ頑張ります!》 何の変哲も無いお礼の言葉と、 《来年もあの桜を見に行きたいです。》 彼女の感想なのか俺に向けられてる誘いの文句なのかどっちつかずの言葉に、少し治まっていた想いが再び高まっていく。 寂しくて。 甘えたくて。 恋しくて。 「どうしたんですか?」 「いや、その……」 それを伝える対象は彼女じゃないのに。 気がついたら俺は、通話のマークに触れていた。 「何か忘れ物ですか?」 「ごめん。間違って押し………」 「何かあったんですね?」 「っ……」 こんなことしたって意味なんか無いのに。 彼女はあいつじゃないのに。 「八神、さん?」 「会いたい……んだ」 「え……」 「なんか、もう、ダメだ、俺……」 「八神さん……」 「畜生っ……何でっ……」 「……」 「今になって……こんな……」 「……」 「会いたい……」 あいつに。 会いたい。
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