俺の事情

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『CADは上手く使いこなせてますか?』とか、 『データ化は進んでますか?』とか、 そんな仕事を装った連絡をするのも違うかなと、開きかけた仕事のメール画面の右上の×をクリックすることを繰り返していた。 いっそのこと『いつ溶かしてくれるんですか?』とLINEでも送ってやろうかと思い始めた頃だった。 中島が転送してきたアンダンテさんからのメールに目を通して、俺は愕然とした。 「担当が、変わった?」 デザインコンテストの一次審査を通過した彼女は、秋にある二次審査への準備の為に今回のリニューアルから外れたという報告だった。 すぐさまそのコンテストについて調べると、まだ歴史の浅いものらしいが、バックアップが建築関連の大手企業なだけに、会社も力は入るんだろうと理解は出来るんだが。 「何だよっ」 溶かすって言ってたのに。 溶かしてくれんじゃねぇのかよ。 『担当すると決まった以上、手は抜けません』 『私自身がどんなお店だったのか、どんなお店へと変わっていくのか、見ておきたかった、それだけです』 初めての打ち合わせの時の彼女が目に浮かんでは消えていく。 丁重なお詫びの言葉と今後の簡易的なスケジュールの最後に新しい担当の名前が最後に記されていた。 今度は高橋という野郎らしい。 彼女は、 忙しいだろうか。 元気だろうか。 LINEくらいなら、迷惑じゃないだろうか。 既読スルーされたらどうしようか。 社用PCを閉じて、 今どきの高校生にも笑われるくらい今の俺はピュアだな、と革張りの椅子に深く沈み込んだ。
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