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高橋というやつは、良くも悪くも合理的でソツの無い男だった。
彼女への信頼感と熱量を比較対象にしてしまうからか(私情が含まれているのはわかってるが)、
初めは冷淡で感情をあまり表に出さない高橋を危うく低評価してしまうところだった。
とんでもないミスをするところだった。
仕事は速いし、正確且つ几帳面で、言わば『出来る男』というやつだった。
彼と少しずつ打ち解けていくに従って、トゲのような毒のような言い回しは、彼特有の表現方法で、
首の上にある童顔のせいで人から舐められないための防御策なんじゃないかと思えてきた。
色の白い肌と、これでもかというくらいの綺麗な卵型の顔にくっついている目にシワを作って微笑むその笑顔は、とても同年代とは思えないほど幼く見えた。
なんか昔にこの男に良く似たやつを知っていたな、と思ったりしていた。
彼女が基礎を丹念に作り上げてくれたリニューアルは、そんな高橋という男へ引き継がれても順調に進んでいく。
担当が誰であれ、
完成までは、
オープンまでは、
もちろんオープンしてからも、
一時たりとも手も気も抜くことはしたくないと思った。
心のどこかには、常に一つの想いがあった。
そう。
「彼女がいてくれたから」
山積みのファイルと。
色鉛筆と。
キャリーバッグと。
一つに纏めた髪と。
胸元にくっついた体温と。
彼女がくれた好きですという言葉と。
それを全部受け止めて、俺は俺でしっかりと進んで行こうと思った。
ちょっと失敗したかな、と気づくまでは。
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