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高橋の笑顔を素直には喜べない俺。
タイミングが良いのか悪いのか、胸ポケットのスマホがブルブルと震えた。
「ちょっと失礼」
画面は、通話ではなくてLINEの通知だった。
そこに表示されたのは彼女の名前。
久しく見ていなかったその名前を震えそうな指先でタップした。
『お話したいことがあります。お時間をいただけますか?出来ましたら今日にでも』
「今日、って」
思わず声に出た俺を、高橋が覗き込んだ。
「どうかされました?」
「えっ!あ、いや、その……」
「私に遠慮せず返信を」
「いや、今じゃなくても」
「いいんですか?」
「え、ええ。プライベートなので」
「そうやって後回しにすると、うまくいくのも手遅れになる」
「そうですね」
「明日やろう、は馬鹿野郎、です」
「へっ?」
にっこり、と微笑むと高橋は、
「八神常務。彼女のコンテストの詳細はご存知ですか?」
「いや、全く」
話題を突然彼女が佳作に入賞したコンテストについて話し出した。
「住宅建築部門」
「住宅建築……」
「現存する住宅のリフォームを行いまして、その住宅は」
「住宅は?」
「うちの実家、です」
「!!!」
「目黒を下の名前で呼んで常務の様子を拝見していましたが、とてもわかり易くてからかいがいあって面白かったですよ、表情がピクっと変わるんで」
「…………」
「勘違いしているようなので誤解を解いておきますね。彼女と、目黒とは何もないですよ」
高橋は悪い顔でそう言うと、
「好きでしたから、つい常務を敵視しまして。要は嫉妬です」
その顔を、くしゃっと崩して微笑んだ。
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