彼女の事情

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風景が窓の外を流れていく。 それを見ながら最初に会った時の八神さんを思い出していた。 そして自然と、夜桜をつまみにビールで乾杯した夜と、 その後の八神さんからの電話を思い出して胸が締め付けられるのを感じて、 窓の外の景色から視線を外せなくなった。 「ただあの頃はさ……」 ふと話し出した八神さんへ顔を向けると、きゅっとハンドルを握り直して、車線を変更し、少しだけスピードを落とした。 「はい……」 言いにくいことを言う時、 言葉を選んでいる時、 鼻の先をポリポリと触る。 そして落ち着かない時は、その指が唇へと移るのも知っている。 今、八神さんは、 「目黒さんには迷惑かけたけど、まだ忘れられない人がいてさ、女々しいって思われるだろうけど、本気で好きだったんだ」 そう言い切ると、唇へと指を持っていった。 「そう、“だった”に変わったんだよ」 強い口調は、まるで自分に言い聞かせるかのようだった。 唇に触れていた指がゆっくりと離れ、その手が私の視界へと大きく入り込み、 「そこ、開けて?」 私の目の前のダッシュボードを指差した。 音も立てずに静かに開いたそこには、薄っぺらくて何も書かれていないディスクが1枚入れてあった。
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